僕は美味しい「エサ」でした

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僕は美味しい「エサ」でした

 (ドラゴン)が大口を開けバクリと僕を(くわ)えこんだ。 「わ、わああっ!?」  悲鳴をあげて暴れても、前後から大アゴで噛まれ逃げられない。  熱くて湿った舌がお腹を這った。大アゴで噛みつかれているんで、無数の牙がお腹や太ももにズブズブ刺さってくる。  ――ななな、何これ!?  「痛ッ! う、ああッ!」  ドラゴンにガブリとされた僕の身体は空中に持ち上げられた。視界がぐわんっとひっくりかえって、暗い洞窟のような場所だとわかる。  ――食べられちゃう!?  けれど理解した。  僕は完全に「エサ」だ。  ドラゴンのごはん……!  鋭い無数の(キバ)が身体に食い込んでいる。  痛い……!   やめて、たすけて!  でも、どうして? 僕はいまドラゴンに食べられているんだっけ!?  疑問が浮かぶけど記憶は曖昧だ。頭に霞がかかっている。気がついたら目の前にドラゴンの顔があって、しばらく見つめ合って……いきなりガブリだもの。  突然の状況に僕は完全にパニック。悲鳴に反応し竜の眼がギョロリと動いた。  金色の大きな目玉、蛇のような細長い瞳孔が冷たい捕食者の光を帯びている。  たたた――食べられちゃう。  圧倒的に巨大なドラゴンの前に、僕はあまりにも無力で最弱な存在だった。  恐怖がこみ上げる。 「嫌だッ! 離して……! う、うわあっ!」  ジタバタと足掻いても無駄だった。  物凄い力で噛みつくアゴは簡単に外れるはずもない。  最後の力を振り絞り、両手と両足で踏ん張ってこじ開けようとしたけれど自分の血でズルリと滑った。  両腕も真っ赤で血が滴っている。抵抗は虚しく空振りに終わり、全身から力が抜けてゆく。 「あぁ……」  ぼやける視界にドラゴンの全身が見えた。鈍色の鱗(ウロコ)に覆われた巨大な身体は、ずんぐりしたトカゲのよう。背中には蝙蝠っぽい羽。鋭い鉤爪のある腕と全身を支える太い脚。長い尻尾がゆっくりと左右に動いている。  そして巨大な鉄の鎖。壁からのびた鎖でドラゴンの片脚が繋がれている。  滅んだと言われていた伝説の魔物……ドラゴンだ。  ――本物のドラゴンに食べられちゃうなんて、そんな嘘でしょ……。  思い出した。  絵本で見たことがる。  孤児院の読み古されたボロボロの絵本。大昔の英雄のものがたり。  そこに描かれるドラゴンは強くて……最強で恐ろしい存在だった。  意識が遠くなる。  血の滴が地面に向けて落ちてゆく。  時間の流れを引き伸ばしたようにゆっくりと。 『――少年……美味なる血肉の少年よ』 「……う……?」  幻聴……だろうか?  意識が朦朧としてきたせいか、声が聞こえた。  でも聞こえた声はだれ?  周囲は薄暗くてよく見えない。  必死に目を凝らすと、深い穴の底のような場所にいた。上を見上げると円形に切り取った灰色の空。  まで井戸の底か地下牢だ。  人間らしき姿はどこにもない。 『――あ……あまり動くでない、ほんとうに喰ろうてしまうぞ……?』 「え?」  もしかして、竜が……しゃべってる?
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