第1話

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 ◇◇◇  3月から、音楽部と軽音部が、1回毎に交代で音楽室を使うようになった。  古沢先生が言った通りだ。比べることをせず、互いの音楽に共感することにより、争うことなく良い結果がもたらされた。  その日の練習が終わった後、私は理科準備室の扉をたたいた。 「どうぞ……」  中から古沢先生の声がする。私は「失礼します」と言い準備室に入った。顔を上げ、いつもと違う先生の表情にびっくりする。顔が赤く上気していた。 …… 先生、まさか私のこと ……  いっしゅん変な気持ちがよぎったけれど、その原因が私ではないことがすぐに分かった。  先生が、パソコンのディスプレイを私に見せないように部屋の奥に向かって斜めに傾けたのだ。 「先生、何をしていらっしゃるんですか?」 「比べてるんだよ」 「え? 比べてるんですか? 何と何を?」 「今、成績を付ける時期なんだ。だから、パソコンの画面は見ないでね」  先生はそう言うと頭を掻いた。  なるほど、比べるなと言っても比べざるを得ない。先生も大変だな。そう思うとともに、何となく嬉しくなる。私は、クスリと笑いながら言った。 「比べるのは愚かですよ!」 .
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