第2話

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第2話

 転校生は関西弁だった。 「せやけど、ファゴットの方が面白いやろ? 弦楽器で言うとチェロバスみたいに支えたろ~気分でやってんけど、あったかいねん」  トランペットの誠司が、おわん型の弱音器(じゃくおんき)で笑いを取ったとき、彼は『ゲゲゲの鬼太郎』のテーマを吹き、そう言い張った。  彼は、三重県からやって来た。私と同じ1年生で、名前は水上(みなかみ)(たける)という。  ある日突然、私は、彼に惹かれるようになった。 …………  温暖化の影響があるのか。今年はいつもより早く菜種梅雨(なたねづゆ)に入った。そんな3月上旬のある日、私は見た。  いじめられっ子の(すぐる)が、傘を忘れて困っているとき、「これ使って帰れよ。僕はもう1本持ってるから。遠慮しんとき」と言って傘を貸したのだ。それだけでも驚いていたのに、卓が帰った後、彼は大雨の中、傘もささずに自転車で帰って行ったのだ。 …… え? 傘は1本だけだったのに、卓に貸したの? ……  何だか胸が、キュンとする。雨の音が心臓の鼓動のように重く響いていた。 .
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