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【 第八章 】 舞台裏
この8章は、3章に出ていた「1年後のふたり」の活動でお送りいたします。(あれから1年たちました)
したがって3章未読だとまったく意味が分からないものになっております。ご了承くださいませ。
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その日、ユウナギは和議を結ぶため国の北東の邑を出て、隣国の領地に建つ館へと向かっていた。
護送だけならナツヒ率いる一の隊のみで十分だったが、現地の兵舎にて、相手の兵の数に有利を取りたくて、ニの隊にも同行を命じた。そして往路の二の隊には1年前の自分たちの到来に合うよう前日に到着させ、ふたりが使者であるという偽装に一役買ってもらうことに。
丞相のすぐ下の弟である軍事官長の持つ兵隊は、全部で5つの組に分けられ、二から五の隊は長の息子たちが率いている。
軍事官長は豪傑を画に描いたような男で、ユウナギは恐ろしく感じ苦手であるが、その長男であるニの隊長は、粋で知的な見た目の男なので友好的に見ている。
ユウナギの好みははっきり言って「優男」なのである。
仮に職権乱用し好みの男にのみ同行を命じたとしても、それはある程度致し方ない。自分の余命を知ってしまったのだから。命尽きるその時まで、できるだけいい思いをしたいし、ただ楽しいことだけを考えていたい。
しかし思い悩むのを止められない。自分の命だけではない。
この日も護送の籠の中から、馬に跨るナツヒをちらりと眺めては、思いを巡らせていた。
一族が滅びてしまう。みんなみんな。ナツヒに話してしまいたくなる。
なのに怖くて話せない。彼に逃げてと言ったところで、決してそうはしないだろう。みなと共に戦って死ぬ道を選ぶだろう。話したところで苦しませるだけだ、どうしようもない。
それでも彼だけは死なせたくない。彼は元気が似合うから。
いつでもどこでも飄々として、たまに調子に乗って、たまに自信過剰で、とにかく日の光の下で、好きなように生きていて欲しい。
「私が死んだ後も、いつまでも生きていて」
――――なんだろう、この気持ち。気持ちに名前なんて付かないだろうけど、これどういうのなんだろう。
川のほとりで休憩中、本人が隣にいても、ひたすらその気持ちの正体を探っていた。
ナツヒはユウナギが形容しがたい顔をして考え込んでいるので、旅の途中で腹でも壊したかと心配になる。
その時ユウナギは思い至った。これはもしや母性というものでは、と。
そうだ、自分の死後も細く長く生きて欲しいと願うそれは、きっと親の思いだ。
「あなたは私の息子なの……??」
「は? お前緊張しすぎて頭がどうかなったのか?」
気持ちに名前を付けたところで、自分には何もできない。彼を守ろうにも、自分が守れる程の敵ならば、彼は自力で倒せるのだから。それが現実。自分にはただ祈るしかできない。
いかに力のある巫女でも、人の生き死にはどうすることもできない。
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