たぬきさんの変身教室

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たぬきさんの変身教室

 とある国  とある森。  そこにはたくさんのたぬきが暮らす、たぬきの村があった。  この村のたぬきたちが普通の動物たちと違うところ。それは、彼らが人間と同じように言葉を話し、魔法の力を使うことができたということである。  人間たちは知らない。世の中には、人間の言葉も文字も文化も、きちんと理解して使いこなすことができる動物たちがいるということを。そして、時々彼らに化けて、人間のふりをして生活をしているということを。  魔法の力と高い知識を維持するためには、たぬきたちはずっと森で暮らしていてはいけないのだ。ある程度の年になったところで、人間たちの世界に“留学”しなければいけない。そして、特にテストで優秀な成績を収めた者は、学校を卒業したあとで人間に化けて人間として残りの生涯を暮らすことになるのだ。  そして時々村に戻ってきて、得た知識と新しい科学を村に伝授する存在になるわけである。  そう、たぬきの魔法とは化けること。たぐいまれなる、変身能力を言うのだ。 「いいかね、諸君」  たぬきの学校では、校長自らが教鞭をとることも少なくない。森の中に作られた、葉っぱの屋根の教室にて、今日も授業が行われている。  校長先生は真っ白な髭を撫でながら、たぬき達に大事なことを教えてくれるのだ。 「人間の社会も進化を遂げた。特に大きな変化は、“いんたーねっと”が幅広く普及したと言っても過言ではない」 「いんたーねっと?」 「電子の世界の、架空のネットワークじゃ。うーむ、なんと説明すればいいか。昔からある“ぱそこん”を小さくしたものを、みんなが今は持ち歩いている時代なんじゃな。それで、みんなが架空の世界、“いんたーねっと”の世界でいつでもどこでも文字でお話ができるようになったのじゃ。もちろん、電話も使えるぞ」 「へえ、すっごく便利!」 「じゃが、問題もある。……ほれ、ポン吉。お前、とりあえず豆腐に化けてみなさいな」  名指しされた生徒のポン吉は、なんで俺?という顔をしつつも指示に従った。呪文を唱えると、ぽん!とう音と小さな白い煙ともに、ポン吉は豆腐の姿へと変身する。 ――あー……。  ポン吉の親友である僕は、彼の姿を見て合点がいった。  どうして校長先生がポン吉に変身しろと言ったのか理解したのだ。 「はい、良いかね諸君?このように……たぬきのシッポが生えた豆腐なんかが発見されたら最後。あっという間に、人間たちの“いんたーねっと”で拡散されてしまうのじゃ。つまり、化けるたぬきの存在が人間たちにバレてしまう可能性があるということである。十分に気を付けるように!」 「は、はーい先生」  みんなは引きつり笑いを浮かべて、豆腐になったポン吉を見た。――豆腐の後ろからは、もふもふとした大きなしっぽが、ぴーんと天井に向かって伸びてしまっている。
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