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202■年7月初旬 関東近郊 D地区 B地方裁判所 判決の決め手となるであろう証拠動画が、AIによる作り物かもしれない。 裁判長を務める鹿沼義一は、数日前からそんな風に考え始めていた。 AIによって作られたものだとすれば、当然、証拠としての価値はない。 そればかりか、これまで善良だと思っていた人間の悪意を認定する必要もある すべて覆るのだ。 それまでの検討は意味がなかったと言ってもいい。 それくらい多大なる影響のあることだ。 しかしなかなか言い出せず、時間は過ぎ、いよいよ後が無くなった。 動画というのは、一人の女性が自宅の廊下に立ち、画面に向かって、犯行をほのめかすもの。 いや、ほのめかすなどという穏やかなものではない。 脅迫。犯行の宣言と言っていいだろう。 実際、その数時間後、事件は起こった。 襲われたのは、若き芸術家、渋谷アーロン、男性、二十二歳。 女が包丁で襲い掛かる姿も動画として残っている。 アーロンがファンサイト掲載用に撮っていた別の動画に映っていたのだ。
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