衝撃の出会い

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衝撃の出会い

リオ 22歳 166cm 50kg ネコ 恋人募集 バニラ希望 NPNC ―――――――――――――― NAOKI 31歳 176cm 65kg バリタチ 筋トレ すぐ会える人希望 ―――――――――――――― シン 29歳 170cm 55kg ネコ 仕事のストレスを忘れさせてくれる人 ―――――――――――――― ゲイ向けのマッチングアプリをなんとなく見ていた俺は、ふと興味を引かれて、左スワイプする指の動きを止めた。 情報は多くない。 マスクをした写真はほとんど顔の情報を伝えてこないし、体型はちょっと細め、服装は大学生みたいで書いてある年齢よりも若くみえた。アプリ慣れしている感じはなく、どこかのトイレの鏡で撮ったと思われる写真は、すこし野暮ったい。 それでも俺がその人を右にスワイプしてマッチングしたのは、なにか自分に共通するものを感じたからだった。 「シン、ね……。まぁ会うまでいけばラッキー、ってとこかな」 朝霧(あさぎり) 涼大(りょうた)涼大、27歳。 激務のブラック企業から転職して一年、新しい会社ではそこそこ楽しく働けている。 若くてそれなりに体力のあった俺は、新卒で入社した会社が真っ黒だと気づくまで三年もかかってしまった。その頃には体にも不調をきたし始めていて、あの手この手で引き留めようとする会社相手に戦ってまた一年、やっと退職する頃には「もう二度と頑張らない」と決意したものだ。 いまの会社は実力主義だが理不尽に難癖をつけられることもないし、ベンチャーならではの自由な気風が自分には合っている。心身の健康を取り戻したおかげで、私生活も充実しているし。 いつも俺はそこそこの見た目を活かして、行きつけのゲイバーでお相手を見つけている。 日本人の平均身長より10cmは高い背丈に、イタリア人のクォーターで顔の彫りがちょっとだけ深い。おかげで相手探しに困ったこともない。 相性が良ければ恋人に昇格することもあるが、あまり長続きはしなかった。なぜか嫉妬深い男に執着されて逃げまわったり、俺の雑な性格に嫌気が差したと振られたり。男運が悪いのか?大ざっぱすぎる性格が駄目なのかなー……。 ま、そのうち運命の相手に出会うこともあるかもしれないし、深く悩んだことはない。 同期の舟橋(ふなばし)には「運命の相手(笑)意外と乙女なの?りょーちん」と馬鹿にされたが。俺はあいつこそが運命の相手、理想の女の子を求めていることを知っているから無視だ、無視。 そんな俺がアプリで相手を探し始めたのには、二つ理由がある。 ひとつは先日行きつけのバーで面倒な絡みがあったこと、もうひとつは舟橋に「今どきの出会いはアプリだ」と力説されたからに他ならない。……あの力説は酒が入ってたからこそな気はするけど。 アプリは外見も数枚の写真からしか判断できないし、それさえ載せていない人もいる。俺自身も知り合いに見つかりたくないと思って、ばあちゃん譲りの特徴のある目――茶色のような緑のようなほとんど見かけない色――は写らないように気をつけた。 だからあんまり、と思っていたのだが、その手軽さと気軽に右スワイプ、“Like!”でアピールできるのは確かに便利だと感じる。 バーでもタチ需要はそれなりに高いけど、アプリだと数十人から一度にアピールされてすごくモテた気持ちになれるうえ、位置情報をONにすればお互いの距離がわかったりするのには驚いた。 なんつーか、現代的…… 何人かマッチングした相手と連絡を取り合っていた俺は、メッセージをやりとりする中で一番フィーリングが合った相手、『シン』と最初に会うことに決めた。 年齢が近かったのもあるし、仕事のストレスを忘れたい、という気持ちはよーく分かるしな。いまの職場ではお気楽に仕事させてもらっているけど、かつての心が潰れそうな苦しさは忘れられない。 最終的には性欲も消え失せてたし……まだシンはそこまで行っていないのなら、少しでも発散の助けになれたらいい、と思った。 「課長のあの人さえ、頑張りすぎて心配になることあるしなー」 俺は次期部長と名高い、けれど見た目はかなりモサい上司を思い浮かべた。あーゆー人はどうやってストレス解消してんだろ。
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