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「まあ、そうだよな」
はは、と苦笑する栗丘に、「でもさ」とマツリカは付け加える。
「あんたの父親、二十年もあやかしに憑かれてた割には、ちゃんと自我が残ってたよね」
「え?」
不意に父の話題を振られて、栗丘は思わず目を丸くする。
「二十年経っても残ってたってことは、うちの親も、そこそこ自我が残ってたのかなって。それだけはちょっと思った。憑かれてたのは八年だけだったし……」
「どこを見てそう思ったんだ?」
食い気味に、栗丘が聞いた。
父には確かに自我が残っていた。
けれどマツリカの視点からすれば、父はただ栗丘たちを殺そうと動いていただけに見えたはずだ。
そのどこを見て、彼女は父の自我を感じ取ったのか。
「どこって、決まってるじゃん。だって、泣いてたでしょ。あんたの父親」
さらりと言ってのけた彼女の言葉に、栗丘は言葉を失う。
「もしかして気づいてなかったの? 最後の方、あんたを踏んづけて殺そうとしてた時に、泣いてたよ。口ではあんなこと言ってたけど、心のどこかでは、自分の息子を殺したくないって思ってたんでしょ」
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