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「本当、馬っ鹿じゃねぇの」
「……敦?」
「マジでオレなんかに頭下げるとか……おっさん、プライドないわけ?」
「土下座して莉世ちゃんを手に入れられるならプライドなんか関係なく、何度だってするよ」
「冬二郎さん……」
「君だって莉世ちゃんに本気だから俺にここまでさせるんだろう? そんな君から莉世ちゃんを奪って行くのだから俺はもっと酷い目に遭ったっていいんだ」
「──チッ!」
敦は強い舌打ちをして置いてあった鞄を手にボックスから出て行こうとした。
「敦!」
「……そこまで言われたなら……諦めるしかないじゃんかよ」
「!」
小さく呟かれた言葉だったけれど私の耳には届いた。そしてそのまま敦は一度も振り返ることなく行ってしまった。
「……敦」
「彼、いい男だね」
「え」
部屋の中に残された私と冬二郎さん。ソファに腰を落としながら冬二郎さんが浅く息を吐いた。
「彼、本当に莉世ちゃんが好きなんだね」
「……そう……みたい」
「いいのかな」
「え」
「あんないい男より俺なんかを選んで」
「……」
「莉世ちゃん、後悔しない?」
「……何」
「俺は莉世ちゃんよりうんと歳上で既婚歴ありの子持ちでおっさんで……背が高いだけでなんの取り柄もなくて」
「……」
「若さの欠片もない、何の面白味のない男だよ? それでも──」
「~~~っ、煩いなぁ!」
冬二郎さんの自虐的な言葉を受けてカッとなってしまい、気が付けばソファに座っている冬二郎さんの膝に跨っていた。
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