化けてでてきたら。

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化けてでてきたら。

「どうして亡くなったの?」 黙る俺に林檎がもう一度尋ねる。 俺は悩む。 悩む必要性もわからなくて余計に腹が立つ。  なんで傷つけることを躊躇しているんだ馬鹿…。 少し考える。 脳裏にとある考えが駆け抜けた。  ああそういうこと……。 笑えてくる。 ええ、まじか。 俺、兄貴と女の好みだけ似たのか。 できれば他のとこが良かったなあ。 最悪。  なんかもういいや。 俺は目尻に笑みを浸す。 「なんでだろうなあ」 「え、阿部知らないの?お兄さんのことなのに?」 「はは」 「こ、殺されたの?未解決みたいな?」 結局、傷つけられなかった。 俺はふっと笑う。 「化けて出てきたら聞いてみるよ」 「ば……化けるって……。阿部なにしたの」 林檎が眉間にシワを寄せる。 今2人きりでいるこの状況でもたぶん翔平はいつ化けて出ようか待ち構えているはずだ。 うける。あの兄貴が。 「復縁しよっか」 半分冗談、半分本気で。 俺が笑ってそう言ってみると、 林檎が「はあ?」と目を細める。 「なんでそうなるのー」 焦る兄貴の顔が浮かぶ。 化けてでてこいよ。 もしまた会えたら、俺言いたいことがあるんだ。 兄貴が命を懸けて守った女は、兄貴を忘れなかったよって。 忘れた、忘れていたかもしれないけど、確かに覚えていたよ、って。 「で、ほんとに知らないの?」 林檎は怪しむような顔で俺に言う。 言うべきだっただろうか。 わからない。 たぶん、言うべきだった。 でも、言わなくて良かった。 ももに言ったらたぶん「なにしてんの」って怒られるだろうけど、それはもう俺の勝手な感情で、言わなかった。 『好きな人を傷つけたくない』 それはすごく、単純な感情だけど。 なあ、翔平。 早く化けて出てこいよ。 林檎の隣は、お前がいいよ。
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