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「そうか?」
今度は心配する側とされる側が逆になってしまった。くすくすと笑いを漏らすと、恨めしげに見つめられる。
「だって、二人そっくりだもん。ほら、写真見る?」
私はスマートフォンに保存した写真を拓也に見せる。何年か前にお祭りで撮った写真を見せると、彼は小さく「俺がいる」と言った。
「やっぱり? 小さいころも似てたんだね。じゃあ赤ちゃんのころは?」
画像データをスクロールしていくと、私自身も懐かしいと思う写真がたくさん出てきた。「これは生まれた日に撮ったの。まだ名前が決まってなかったんだけど、子どもができたらどちらかの名前を一文字つけたいねって話を思い出して。私、未練たらたらだったのね……秀也、なんてつけちゃった。拓人にするか迷って。でも間違えて、拓也って呼んじゃいそうだったから……」
悲しいわけでもないのに涙がこらえきれない。
「秀也を育ててくれて、ありがとう」
別れを告げたあの日。彼の目には憂いがあった。妊娠への動揺が見て取れた。けれど今、真っ直ぐにこちらを見つめる瞳には、喜びと愛しさしか浮かんでいない。それが嬉しい。
「うん」
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