第4話 蛙の祟り

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 翌朝。  奥村は寝床の中で全身にむず痒さを覚えて起きた。まだ寝ていたかったが、痒さの方が勝って、起きざるを得なかった。  痒い箇所は背中、腹、両腕、両足、そして小便を垂らした陰茎の先っぽまで、全てだった。見ると、深緑色を帯びた赤褐色に腫れあがっている。 「なんじゃ、こりゃあ」  藪や叢に入って蚊や毛虫に刺されて赤く腫れることはあっても、深緑色に腫れた皮膚を見るをは初めてだった。 「医者に診てもらうか」  奥村はとりあず、パジャマを脱ぎ、着替えることにした。その時、違和感が彼を襲った。目がよく見えないのだ。いや、見えるのだが、視界の中央がぼんやりしている、左右ははっきりと見えるのだが、まるで中央の視界が欠落しているよう感じなのだった。  洗面所へ行き、自分の顔をか鏡に映した。 「!!!」  ショックのあまり、声が出なかった。  目の位置がカエルのそれのようにズレていたのだ。左右の両眼は左右の頬骨の上のあたりに移動していたのである。おまけに、顔の皮膚が緑や茶色、灰色の模様になっている。まるで、あのカミサマカエルのように。  奥村は手の付けらない非道のワルだが、まだ中学生なので不仲とはいえ、親を同居している。「お袋!」母親を呼んだ。 「なんだい?」母親が現れた。「お前がわたしを呼ぶなんて、どういう風の吹き回しだい?」 「俺の顔、大変なことになった!」 「あん? どうしたって?」 「カエルみたいになった」 「カエル?」母親は息子の顔をじろじろ眺めた。「馬鹿なこと言ってんじゃないよ! どこがカエルなんだ? フツーのアホ面じゃないか」 「え?」  奥村は鏡をもう一度見た。  普通の顔に戻っていた。カエルではなかった。まだら模様も消えている。奥村はキツネにつままれた気分になった。  お袋はふんと鼻を鳴らすと、パートの仕事に出かけてしまった。  奥村はもう一度鏡を眺めた。カエル顔ではない。ほっとして、にやりと笑う。そのとたん、彼はぞっとした。心臓を鷲掴みにされた気分だった。鏡に映った自分の歯…それは、人間の歯ではなかった。歯ブラシのような歯がびっしりと並んでいる。まるでカエルの歯だった。  
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