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――濡れた砂に足をとられ、なかなか近づけない。 そうこうしている間にも、水を含んだ段ボールは、どんどん海面から沈んでいくのが見える。 (……間に合って!) こんなとき、鞠愛なら、 野を飛び回るウサギのように砂浜を駆け抜けていけたのに。 『亜樹ちゃんといてもつまんない』 『何にもできないんだから。亜樹ちゃんは』 「………ッ」 やっと波打ち際まで到達した亜樹は、じゃぶじゃぶと海に入って行った。 「冷たい!」 日差しがある時の生ぬるい海とは違う海水が、亜樹の身体を冷やす。 それでも沈んでいく段ボールに向かって、亜樹は必死に足を進めた。 風が――強い。 海面が風の形に模様を作る。 その波にさらわれるように段ボールがどんどん遠くなっていく。 「……ッ!!」 亜樹は手を前に構えると、水面に顔をつけて砂を蹴った。 (届けッ!!) 必死に手でもがく。 足で海水を蹴る。 自分の浮き沈みと共に視界に見え隠れする段ボール箱は、だんだん近くなっていった。 「……届いたっ!!」 思いきりその箱を引き寄せる。 「ミャー」 その中で猫は確かに生きていた。 「ッ!!」 (ここから岸に帰らなきゃ!) ふにゃふにゃになった段ボールごと抱きしめながら、亜樹は砂に足をついて方向を変えようとした。 しかし、 (足が――つかない……!?)
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