第1話

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もうやめて、と言おうとした時、スマホの着信音が鳴った。 「黒崎、あいつはほんっとにタイミングが悪い」 そう言って、仁君が私から離れる。スマホを手に取った。 「はい、そう、まだ一花の家」 私の家にいるって言ってしまうの?もしかしたら立場上、何処にいても追跡はされているのかもしれない。 「わかった。直ぐ行く。」 仁君の声が険しくなった気がする。通話が終わる。 「一花、ごめんね。帰る」 床に落ちていたシャツに腕を通しながら、彼が私の頭を撫でた。 ちょっと慌ててる? 「じゃあ、また来るから」 また来るって、此処に? 「う、うん」 手を振って、玄関を出て行く仁君の後ろ姿を見送った。 この部屋で、昨夜、何かあったんだろうか。思い出せない。 あ、大変。会社に遅れる。熱くなった唇を押さえながら、洗面所に向かった。 「おはようございます」 私は、なるべく目立たない様に、小さな声で挨拶をしながら部屋に入って行った。 「おはようございます」 宮島さんがデスクから、挨拶して来た。 「西脇さん、なんか顔色悪くないですか。」 「え、そう?そんな事ないですよ」 昨日、飲み過ぎたから、きっとその所為。 意識がない位飲んだ私が馬鹿だった。 仕事を頑張らないと。 まだ今日で転職してから、2日しか経っていなのに、かなりの疲労感だ。 まさかまたお昼に仁君が現れるなんて事はないよね。 念の為、今日はお弁当を買って持って来ていた。 外に出ない限り、会社の近くで仁君に会う事はない筈だ。 我ながら冴えている。
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