序章

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序章

<過去 オトギリ町>  ーーこれは、はるか『未来』。  ーー『くるみら王国』と名前を変えた『チキュウ』のお話。 【本編】  今日も、明日も……。  ぼくが16歳になるまでは、絶対に変わらない。  つまらなくて、ぎすぎすした生活の日々のくり返し。いやになっちゃう。   ……。  ぼくの足音だけが、ザッ、ザッと響いている。他には何も聴こえない。    (……いつまでこんな生活なんだろう)  ぼくは、はぁとため息をついた。    ……自己紹介がまだだったね。  ぼくはルルヤ。12歳。だけど、もうすぐ13歳。誕生日が来るたびにぼくは不安になる。誕生日まであと何日だろう。2週間……あれ? 1週間後かも。毎日同じ繰り返しで、今日が何日かわかんないな。けど、不安は日に日に大きくなってて……。  (朝が来ても元気が出ないんだ)  ぼくは『オトギリ町』に住んでいるんだ。周りは森だけど、住むだけなら便利な町……だと思う。なんたって、ここには『電気』が通っているから。他の町や村には無いんだって。ぼく。本で読んだ!  『電気』ってすごいよね。ボタンひとつで、電気がつくし、お水だってお湯になる。お弁当を温めることだってできちゃう! とにかくすごいんだ!  食べ物はね。ぼくの家の近くにガラス張りの建物があって、そこの大きな『冷蔵庫』の中に無料のお弁当が入ってるんだ。ここは、オトギリ町に住んでいれば、どんなひとでも自由に使っていい。  けど、肝心のお弁当は……  すごく、まずい。  味はあるんだけど、おクスリみたいな変な味なんだ。すごくまずくて、ぼくはほとんど食べられない。  たまに、お肉の缶詰やくだものの缶詰が『冷蔵庫』に入っているけど、お肉はハズレ。くだものはアタリ。と、ぼくは勝手に思っている。くだものは甘くて美味しいんだけど……。お肉の缶詰めはすごいトラウマで……。ぼく、お肉が食べられなくなっちゃった!  ぼくは、生まれも育ちも『オトギリ町』だから、他の街のことは知らない。本で少し読んだだけ。ここよりも住みやすい『天国』みたいな場所があるなら、ぼく。そっちに行きたいな。あるのかな? そんなとこ。空気がピリピリしてなくて、ごはんもおいしくて、毎日がたのしい場所……憧れるなぁ。  はー……。  ぼくね。町の中では『純血』なんて呼ばれてる。よそから避難してきたひとたちは『よそもの』って言われてる。その区別? 差別? がぼくはとてもイヤだった。  『純血』は16歳になったら……ほら。見て、あそこにある大きな門! 『もんのむこう』って、みんな呼んでる。そこで働かなきゃいけない。中の様子はわかんない。周りをぐるりと塀に囲まれちゃってるから。  怖いのはね。『もんのむこう』に足を踏み入れたら最後、出ることができない。……たくさん住んでるはずなのに誰も出てこないんだ。  『もんのむこう』から声は聴こえないし。けど! たまに! 「ウギャアァ!」って、すごい怒鳴り声とか聴こえてくるんだ。そのあと、焦げ臭いニオイが『もんのむこう』から漂ってくる。何が焦げたんだろう? いつも。謎に思ってる……。でも、知りたくはないかな。  ……いま、ぼくがいるのは『もんのそと』。『もんのむこう』のひみつは暴けない。ぼくは16歳になれば入れるけど。  (入りたくない)  16歳の誕生日を迎えていない『純血』の子は、『もんのそと』の『シェアハウス』にみんな住んでいる。生活のサポートに『よそもの』の寮母さんがいて、食事やお掃除といった家事をぼくたちのためにしてくれる。  ほかの『純血』の子も一緒に住んでいるけれど。みんなと特別仲良しってわけじゃない。  みんな。笑顔で仲良く! なんて、幻だから。  どこにいっても窮屈で、空気がぴりぴりしている。  お買い物に行けば、みんな『仮面』を貼り付けて、ちぐはぐな笑顔で言葉を交わしてる。  お勉強のための『寺子屋』だって、先生は無機質だし、クラスメイトのみんなは……ずっと、ノートと向き合ってひとこともしゃべらないから。  「……」  空気がどんより。ぴりぴり。ほんと。窮屈なんだ。  「はぁ……」  だから、ぼくは夜になったら星を見に行く。  空を見上げれば、沢山のお星さまに出会える。  夜は静かで、空気が澄んでいるから、ぼくはイヤなこと悪いことを全て忘れられる。  「……」  男子寮の裏は、星がよく見えるんだ。  「今日のお星さまは……」  灼熱の季節が終わって、夜もずいぶん涼しくなったよね。ぼくの長い髪。風に揺れてる!  「あっ! お星様いっぱい……。キレイだな……」  輝く満天の星空がすごくきれい!  (ぼくね。『ともだち』がほしい。そのために、ぼく。良い子になるから……)  『お星さまにお願いごとをしたら叶う』って、ぼくは本で読んだことがある。叶ったことはまだないけど。  (こんな、ぴりぴりの空気。おいしくないお弁当。つまらない生活。イヤだよ)  みんなの距離が遠いのも、ぼくはぴりぴり。心がつらい。  ぼくの『味方』は誰もいなくて、ぼくはずっとひとりだから。  (毎日お願いしたら、きっと叶うかな……) ーー「ねぇ。お星さま」 ーー「ぼくのお願いごと。きっと叶えてね」476f8f61-0415-495e-af43-9a5f46bac52e
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