におい

2/3
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「そこで私は『A夫くんとB子さんのデート』を追跡したり、答えを追い求めた」 「おいっ!?」  副生徒会長の逢瀬さんが勢いよく席から立ち上がった。 「ちょっと倉科くん。私たちは二年生ももう終わりが近いのよ? 他人の恋愛事なんかに興味持っていないで、卒業後の進路に目を向け始めないと……」  真顔になった副生徒会長の逢瀬さん。  厳しく言われた倉科生徒会長は肩を落とした。  副生徒会長の逢瀬さんは慌てた。 「ま、まさか、倉科くん。あなた、A夫くんのこと、うらやましいと思ってるんじゃ?」  鋭く指摘されて倉科生徒会長は動揺する。 「えっ!? い、いやいや……いやいやいやいや」  この場で唯一の一年生である書記の高瀬くんがさらにツッコミを入れる。 「副生徒会長。そこはB子さんに気が合ったの? って聞くところです」 「はうっ!?」  倉科生徒会長にトドメの一撃を食らわせた。 「そ、そうなんだね……」  いと哀れ、という負の感情が生徒会室を失意の底に沈めた。 「それで……」  書記の高瀬くんが頭をかきながら聞いた。 「釣り合いの取れていないはずの二人が、なぜカップルになれたのか、ですか? ストーカーしたりして、その謎は解けたんですか?」 「ああ。A夫くんに関して、私はある事実を発見したのだ」 「発見? ほう?」 「聞きたい?」 「えっ? ええ」 「聞きたいか?」 「まあね」 「あー、ちょっと待ってください。ちょっと高瀬くん」  会計の安藤さんが書記の高瀬くんに耳打ちした。 (倉科生徒会長はスマートに見えて実は暑苦しいヤツなのよ。こっちも暑苦しく受け答えしていないと、あっちだけがどんどん熱くなっていくからね) (は、はひっ)  書記の高瀬くんは倉科生徒会長に向き直り、叫ぶように言った。 「聞きたいっ! ですうっ!」 「そうかっ!!」 「はあ……」  生徒会一同、生徒会室の室温が三度上がったような気がした。  副生徒会長の逢瀬さんは手のひらで顔を扇ぎながら言った。 「もう何でもいいから、言ってみなさいよ」 「におい、がする」 「は? 嫌だ。私、汗臭くはないわよ?」 「キミのにおい。スーハーハー」 「このセクハラ生徒会長」 「いや、すまん。においってのは、A夫くんのことだ。彼は、におう」 「そ、そりゃまあ、あれだけ体重あれば、脂肪と脂肪が重なっているところも多くて汗もかくだろうわね」 「そのにおいじゃない。彼は……良いにおいがするんだ」 「!? !? !?」  倉科生徒会長はくんかくんかと鼻を鳴らした。  生徒会一同は憐みの表情を浮かべた。 (かわいそうに。失恋のショックで、いつもよりもっと壊れちゃったのね) 「うあっ!?」  書記の高瀬くんが突然悲鳴を上げた。  見ると、倉科生徒会長が書記の高瀬くんに抱きつき、その体のにおいを嗅いでいた。 「高瀬くんからはA夫くんと同じにおいはしないなあ」 「なんなんです? そのにおいってのは?」 「良いにおいなんだよ。A夫くんと朝の挨拶や帰りの挨拶ですれ違ったとき、それはもう彼から爽やかなにおいを感じるのだ」  倉科生徒会長は両手のこぶしを握り締めた。 「あのにおいに、あのB子さんは落ちたのだよ!」 「A夫くんとB子さんが付き合うことになったきっかけが一体何かと思ったら……」 「倉科生徒会長が一体どんな事実を発見してきたんだと思ったら……」 「におい、ですか……」 「においなんだよ! 自分自身では嗅ぐことができない体臭が、A夫くんのあのにおい! 私からもしないかね? 逢瀬さん、安藤さん、高瀬くん、さあ僕の体から爽やかなにおいを発見してくれたまえ!」 「ええい、暑苦しい」 「汗くさっ!」  女子二人は呆れ返って帰ってしまった。  高瀬くんは一応、聞いてみた。 「もしやと思いますが、B子さんにも同じこと言って……、フられたんですね……、生徒会長?」 「うっ、うおおおおお……」  生徒会長の心の……心の汗が目から溢れ出た。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!