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『恋愛を解く』の鍵、ここにあり――。
これが本日の生徒会のテーマであった。
生徒会一同、黒板にそう書かれた文字を見て、まずは書記の高瀬くんが訝しげな表情を浮かべて言った。
「恋愛…ですか? およそ生徒会のテーマにするものではない、と思えますけど……?」
会計の安藤さんがズレた眼鏡を直し、高瀬くんの疑問の声に続いた。
「同感です。恋愛だなんて……、風紀委員会が食いつきそうな言葉ですね」
帰り支度を始めた二人を副生徒会長の逢瀬さんが「まあまあ」と落ち着かせた。
「生徒会長のお考えですよ。まずは倉科生徒会長の話を聞きましょう。生徒会長。どうぞ」
「最高のオープニングだ。ありがとう。逢瀬くん」
倉科生徒会長は胸を張り出して言った。
「ここに一枚のお悩み相談の手紙がある。我が校の生徒からのお悩みだ」
「うんうん。生徒の悩み事の解決は生徒会の仕事です」
生徒会一同、頷いた。
「よろしい。ここにはこう書かれているぞ。『A夫くんとB子さんが、なぜ、付き合っているのか、わかりません』」
「はらほろ~」
生徒会一同、ズッコケた。
「く、倉科生徒会長。そんな嫉妬まじりの愚痴みたいなお悩みは、生徒会が取り上げるレベルにあるのですか?」
「ある」
「はひっ」
生徒会一同、わけがわからないという表情になってしまった。
「その表情だ!」
倉科生徒会長は生徒会一同に人差し指を向けた。
「B子さんといえば、先日、我が校の文化祭で行われたミス・コンテストで見事優勝した、美し過ぎる一年生」
「あー。あれね。くだらない催し物だったわ」
「そうそう。風紀委員会もよく許したものでしたわ」
と「ねー」と頷き合う副生徒会長の逢瀬さんと会計の安藤さん。
「さすがに水着審査は却下されたけどな」
「それ初耳です……」
沈黙を書記の高瀬くんが「ごほん」と咳払いして破った。
「別に、誰と誰が付き合おうが、それって自由ではありませんか? 恋愛禁止とは校則にはないですからね」
「それだ!」
倉科生徒会長は黒板をドンと叩いた。
「恋愛は自由だから、こんな『A夫くんとB子さんが、なぜ、付き合っているのか、わかりません』というお悩みが生徒から出てくる」
「いやだからって、そんなお悩みを解決して僕たちに一体何が得られるのですか?」
「いいか? A夫くんとB子さんだぞ?」
「好き合っているならいいじゃないですか、もう」
「聞け。B子さんは先に述べた通り、美し過ぎる一年生だ。では、A夫くんといえば?」
会計の安藤さんが言った。
「はい。彼は二年生で、私は一年生の時に同級生でした」
「印象は?」
「彼とは会話らしい会話をしたことないので、印象ってのはどうなんでしょう、彼の体重が私の二人分、それ以上はルッキズムという発言になりますので、言えません」
「つまりだ。体重二倍のA夫くんと美し過ぎるB子さんとでは恋愛の釣り合いが取れていないはずなのだよ。それなのに、なぜ、二人はカップルになれたのだ!?」
「うーん……?」
「おかしいだろっ!? そう思わないのかね? 美し過ぎるB子さんならもっとスマートなタイプを選ぶはずだ。A夫くんにしたって、ただでさえ目立つあの体重だ。彼の恋愛の対象はもうちょっと地味……、失礼、控えめな子を選ぶはずだ」
「ちょっとその、倉科生徒会長が持っている生徒からのお悩み相談の手紙を見せてくれませんか?」
「ノー! 見せられない。相談者の秘密は守られないといけない」
倉科生徒会長は手の中にある手紙をグシャっと握りしめた。
生徒会一同は眉をひそめた。
(まさか……。生徒会長自身のお悩み相談ではあるまいな?)
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