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Prologue
「菜弥美にはわからないのよ!」
放課後の教室に、親友の綾香の声が響いた。鼻の奥がツンとして、怒りよりも悲しみが競り上がってくる。
「もういい……もう知らない!」
綾香はカバンを掴んで、そのまま教室を飛び出した。追いかけよう、とすぐに思った。だけど体は動かなかった。足が鋼になったみたいに。その一歩がどうしても踏み出せない。
ダメだ、ここで追いかけないと、私と綾香は本当に終わりなのに。
名前を呼ぶ代わりに、喉から嗚咽が漏れた。
逆に今までよく我慢できていたと思う。窓から差し込んできた夕日に目を細めると同時に、視界が一気にぼやけた。涙が次から次へとこぼれ落ち、止めどなく床を濡らしていく。私はそのまましゃがみ込んで、しばらく動けなかった。
なんで、こんなことに。
それも全て、自分のせいで。
もう自分が大嫌いだ。消えてしまいたい。
知らず知らずのうちに夕日の角度は変わり、教室に長い影を作っていた。
自分もその影の中に入れたことで、少し気持ちが落ち着いてきた。乱れた呼吸を整え、私は立ち上がる。
もう正義の味方ごっこなんてやめよう。
こんな能力、ただ人を傷つけるだけだから。
消えよう。もう自分を極力消して、生きていこう。
私の心の中に、どこよりも深く、重い闇が灯った。
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