シーン2

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 もともと、ここ一帯は菟上家の敷地だったが、明治初期に県が買い上げたそうだ。今残っている美豆神社の神域は、廃墟からすぐ目の前に広がっている、せり出した畔のみらしい。  叶は、廃墟をいろんな角度から撮り、次に廃墟からごく近い、美豆神社の鳥居を見に行く。  美豆神社の鳥居はせり出した畔の先にあった。鳥居を見るために畔へ歩み寄る。せり出した畔にだけ、木々がなく目の前に広がる大きな山池を一望できる。澄んだ水が打ち寄せる岸辺があり、視線の先に半分ほど水面に沈んだ石作りの、よく見かける神明鳥居が建てられていた。拝殿はないかと見渡したが、見当たらない。  美豆神社の祭神は淤加美神(おかみのかみ)で、祈雨や止雨の神である。神社が建てられたおみず沼は酸性度の高い水質なので、農業用水には向かない。しかし、干ばつの時でも水が枯れなかったことから、大昔の菟足村の村民、菟上家はこの沼には神がいると信じたのだろう。確かに満ち満ちた水面を晴れているときに見たなら、きっと神秘的に見えたはずだ。  それにしても、『おかみさま』の祈祷場はどこなのだろう。さすがに郷土資料本を調べてもそのことは書いてなかった気がする。
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