忘れもの

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 私の軽自動車は、アクセルを踏むと何やら音がする。  それに車検がもうすぐ切れるので、長年お世話になっている近所の橋本モータースへ、パートの帰りに寄った。  愛車は購入してもう十五年になる。オドメーターは十三万キロを超えていた。あちこちガタがきていて、騙し騙しなんとか乗ってきたけど、翌日橋本さんから修理に十万は軽くかかると打診があった。 「ねぇ、お父さん。さすがに十五年乗りつぶした車に、あんまりお金をかけたくないよね」 「そうだなぁ、買い替えるか」 「少し前にお父さんの車を新車で買ったばかりだから、私のは中古でいいかな。お金もないし」  そういうわけで、あっさりと中古車を買うことに決めた。 「あ、育実(いくみ)、母さん今度中古車に買い替えるよ」 「ふーん」  いつもと同じく不機嫌そうな顔で、冷蔵庫からペットボトルを取り出して、スマホを見ながらゆっくり階段を上がっていった。  育実が生まれてから購入した車が十五年、つまり育実も十五歳。難しいお年頃でいつもそっけない。私はため息をひとつついた。
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