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ハンドルが軽い。アクセルをゆっくり踏んで、スピードを上げる。橋本モータースがだんだんと小さくなっていった。
帰りにスーパーへ寄って、いつも通り急いで買い物を済ませる。いつもと変わらない光景なのに、目の前の霧が晴れるように、気持ちがスッキリしている。
バタバタとご飯を作る。塾のお迎えまでにはなんとか終わらせておきたい。鼻歌なんか歌ってる自分に気が付いて、おかしくなって口元が緩む。
玄関が騒がしくなり、宗佑が帰ってきた。
「車、水色じゃん」
「水色いいよね。かわいいでしょ」
「かわいすぎておばさんに似合うかな」
「コラ、おばさんと言うな。まごうことなきおばさんだけども!」
あんまり時間もないから、適当に野菜を炒める。換気扇とジュウジュウ焼ける音が、私の鼻歌をうまく隠してくれる。
「宗佑、そろそろ育実のお迎え行ってくるから、後で味噌溶いておいて」
「はいはーい」
玄関を出るとセンサーライトが水色の車を照らした。育実はこの車を見たらなんて言うだろう。あの子のことだから「別に興味ない」とそっけないかな。そんなことを考えながら塾へ向かった。
ビルの入り口でスマホを見ていた育実を見つけて、助手席側の窓を開けて名前を呼んだ。少しキョロキョロしていたけど、車内で手を振る私と目が合うと少しかけ足で向かってきた。
「車違うから全然分かんなかった」
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