25歳

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……ん? ミナトは、若い女性二人組がこちらの方を見て話しているのに気づき、くるりと顔を向けた。 「!——やっぱりそうだって!!」 「いやいや、たまたま似てるだけかも……」 「えー、でもめちゃくちゃ面影が……」 なんだろ? 知らない人たちだと思うけど、俺の話をしている……? ミナトが怪訝そうにしていると、不意に二人組のうちの一人がこちらに近寄ってきた。 「あのーぅ……」 突然話しかけられ、ミナトは驚きつつも「はい?」と返事をした。 「もしかして……ミナトさんですか?」 「え!?」 ミナトがぎょっとして目を見開くと、女性は 「えっ、あっ?やっぱりそうなんですか!?」 と確信めいたように言った。 「どうして俺の名前を知ってるんですか?」 混乱した面持ちでミナトが問うと、女性はミナトにこう告げた。 「展示の最後に飾ってある絵…… 男性の人物画なんですけど、あなたにそっくりだったもので……」 「絵?」 「その絵のタイトルに『ミナト』って付けられていたので、 あの絵のモデルになったご本人が観に来ているのかな、って思ってお声がけしてみたんです!」 「……!」 ミナトは目を見開くと、展示の出口付近まで歩いて行った。 そして順路の最後に飾られている絵を見て愕然とした。 そこにあったのは、ナナミによって破り捨てられたはずの、裸のミナトの絵だった。 だがよく見ると、そっくりではあるが全く同じ絵ではないことが分かる。 構図や色合いは同じだが、顔と体型が若干異なり、この絵の方がどこか大人びた容貌であるように見えた。 こんな…… こんなことが有り得るのか? だっておかしいだろ。 この絵を描けるのは、それこそ一人しかいない。 俺の顔を知っていて、俺の身体のどこにホクロがあるかだとか、そこまで詳細に知っていて描けるのは一人しかいないじゃんか。 だけど…… 描けるわけがない。 あいつに描けるわけがないのに。 「なんで……」 ミナトが絵に釘付けになっていると、さっきの二人組女性たちがミナトの元に再びやって来た。 「この絵のモデルさんってことは、八雲泉先生ともお知り合いってことですよね……!?」 「私たち、八雲先生の絵を目当てに展示会に来たんです。 八雲先生って、顔も年齢も性別も非公開なので謎に包まれてるんですけど、 どういう方なのかこっそり教えてもらうことってできます?」 期待を込めて見てくる二人組に、ミナトは躊躇いがちにこう返した。 「……すみません。 俺、八雲泉って人のこと、この展示を見て知ったばかりで……」 「ええっ!?モデルさんじゃないんですか? だって顔もこんなに似てて、名前も——」 「確かに俺にそっくりな人が描かれてて、名前も一緒ですけど、他人のそら似だと思います。 だって俺、八雲さんって人に絵を描いてもらった覚えがないですから」 「……ええー……」 女性の一人は、ここまでそっくりなのに?と言いたげだったが、 もう一人の方が彼女を小突いて言った。 「馬鹿ねえ。八雲先生の素性を明かさないために、知らないフリをしてくれてるんだよ。 八雲先生への配慮だよ」 「そっかぁ。八雲先生のプライベートが流出するのを防ぐためかあ。 確かに『ミステリアスな画家』ってことでも話題性を呼んでるもんね!」 二人は納得したように話し合うと、 これ以上ミナトに何かを聞いてもしらばっくれられるだろうと考えたらしく、大人しくミナトの元を離れて行った。 ——ミナトはその後も、閉館ギリギリまでその絵を見つめていた。
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