25歳

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この絵……やっぱりカイリじゃなきゃ描けないよな……? 新作島の景色はともかく、この絵のモデルは間違いなく俺で、 俺の裸をじっくり見たことがあるのなんてカイリと……あとナナミくらいなものだし。 でもナナミがこんな絵を描ける訳ないから、その可能性はない。 ならやっぱり、これを描いたのはカイリで—— だとしたら、これはいつ描かれたものだ? カイリが生贄として死んだのは中3の夏。 もう……10年も前の話だ。 俺が裸の絵を描いてもらっていたのは中3になってからの春から夏にかけてあたりだ。 だからカイリが描いたのだとしたらその期間ってことになる。 だけどこの絵とそっくりな絵は、カイリが俺にプレゼントしてくれたものだ。 俺がずっと保管していたのだから、他の誰かがそれを見て模写したってことはあり得ない。 ってことは、あの絵を描くのと同時進行で、もう一枚そっくりな絵の制作をしていたってことだろうか。 ——だとして、じゃあ八雲泉って何者だよ。 なんでカイリの描いた絵を、その八雲泉とやらが展示してるんだよ。 ……! もしかして、盗作——? ミナトは、一つの可能性に行き当たった。 カイリの死後、カイリの両親は新作小学校での教師を辞め、本土に戻ってしまっている。 一人息子を、祟りを鎮めるための生贄にされたのだから当然だ。 そんな忌まわしい場所に、息子が死んだ後も住み続けるなんて、普通の精神ならできないだろう。 そして教員社宅を去る時に家財一式も本土に持ち帰ったから、そこにはカイリの描いた絵も含まれていたはず。 それが何らかの形で流出して、八雲泉の目に留まり、彼の名義でカイリの描いた絵の数々が発表されたのでは……!? だとしたら、顔や年齢、性別を非公開にしているという さっきの人たちの説明にも納得がいく。 パクった絵で売れちゃったから、プライベートを晒してボロを出してしまうのを防ぎたいんだろう。 その結論に至ったミナトは、次に沸々とした怒りが湧いて来た。 新作島の奴らだけでなく、その八雲泉ってやつもカイリのことを利用したのか。 死んで文句の言えない相手の絵をパクって売れるなんて、大層な神経をした奴だ。 ……許せない…… ミナトが拳を握りしめた時、不意に館内にアナウンスが流れてきた。 『間も無く閉館のお時間です。 お出口の近くにアンケートを用意しておりますので、ぜひご記入のご協力をお願いします』 ……そういえば、アンケート用紙を設置してるって、図書館の人が言ってたな。 ミナトはアナウンスを聞いて思い出し、それと同時に、あることを閃いた。 ——決めた。八雲泉に喧嘩を売ってやる……! ミナトは出口の前でアンケート用紙を一枚手に取った。 『どこでこの企画を知りましたか?』 『どの作品を気に入りましたか?』 『今後展示会に参加してほしいアーティストがいたらご記入ください』 そんなありきたりな設問の最後に、自由記述という欄を見つけたミナトは、そこにこう書き記した。 『八雲泉さん。 あなたが俺の親友の絵をパクって売れたってこと、俺は知ってます。 あの絵を描けるのは世界でただ一人、俺の親友だけだと確信しています。 あなたと一度会って話がしたい。 あの絵のモデルより』 ミナトはその後ろに、自宅の住所を書き添え、回収ボックスの中に投函した。
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