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この絵……やっぱりカイリじゃなきゃ描けないよな……?
新作島の景色はともかく、この絵のモデルは間違いなく俺で、
俺の裸をじっくり見たことがあるのなんてカイリと……あとナナミくらいなものだし。
でもナナミがこんな絵を描ける訳ないから、その可能性はない。
ならやっぱり、これを描いたのはカイリで——
だとしたら、これはいつ描かれたものだ?
カイリが生贄として死んだのは中3の夏。
もう……10年も前の話だ。
俺が裸の絵を描いてもらっていたのは中3になってからの春から夏にかけてあたりだ。
だからカイリが描いたのだとしたらその期間ってことになる。
だけどこの絵とそっくりな絵は、カイリが俺にプレゼントしてくれたものだ。
俺がずっと保管していたのだから、他の誰かがそれを見て模写したってことはあり得ない。
ってことは、あの絵を描くのと同時進行で、もう一枚そっくりな絵の制作をしていたってことだろうか。
——だとして、じゃあ八雲泉って何者だよ。
なんでカイリの描いた絵を、その八雲泉とやらが展示してるんだよ。
……!
もしかして、盗作——?
ミナトは、一つの可能性に行き当たった。
カイリの死後、カイリの両親は新作小学校での教師を辞め、本土に戻ってしまっている。
一人息子を、祟りを鎮めるための生贄にされたのだから当然だ。
そんな忌まわしい場所に、息子が死んだ後も住み続けるなんて、普通の精神ならできないだろう。
そして教員社宅を去る時に家財一式も本土に持ち帰ったから、そこにはカイリの描いた絵も含まれていたはず。
それが何らかの形で流出して、八雲泉の目に留まり、彼の名義でカイリの描いた絵の数々が発表されたのでは……!?
だとしたら、顔や年齢、性別を非公開にしているという
さっきの人たちの説明にも納得がいく。
パクった絵で売れちゃったから、プライベートを晒してボロを出してしまうのを防ぎたいんだろう。
その結論に至ったミナトは、次に沸々とした怒りが湧いて来た。
新作島の奴らだけでなく、その八雲泉ってやつもカイリのことを利用したのか。
死んで文句の言えない相手の絵をパクって売れるなんて、大層な神経をした奴だ。
……許せない……
ミナトが拳を握りしめた時、不意に館内にアナウンスが流れてきた。
『間も無く閉館のお時間です。
お出口の近くにアンケートを用意しておりますので、ぜひご記入のご協力をお願いします』
……そういえば、アンケート用紙を設置してるって、図書館の人が言ってたな。
ミナトはアナウンスを聞いて思い出し、それと同時に、あることを閃いた。
——決めた。八雲泉に喧嘩を売ってやる……!
ミナトは出口の前でアンケート用紙を一枚手に取った。
『どこでこの企画を知りましたか?』
『どの作品を気に入りましたか?』
『今後展示会に参加してほしいアーティストがいたらご記入ください』
そんなありきたりな設問の最後に、自由記述という欄を見つけたミナトは、そこにこう書き記した。
『八雲泉さん。
あなたが俺の親友の絵をパクって売れたってこと、俺は知ってます。
あの絵を描けるのは世界でただ一人、俺の親友だけだと確信しています。
あなたと一度会って話がしたい。
あの絵のモデルより』
ミナトはその後ろに、自宅の住所を書き添え、回収ボックスの中に投函した。
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