1.怒る神様

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「けがはしてないみたいだ。すごく綺麗な毛並みだから、迷子かな」 「……?」  俺に気づいて、子犬が目を開けた。丸い瞳が可愛い。びっくりしているのがわかって、そっと話しかける。 「俺、お前たちの声が聞こえるんだ。話せるかどうかは、相手の能力次第なんだけど」  子犬は何も言わず、丸い瞳のままこちらを見ている。 「……すぐ、お前の家を探すから。まずは交番だな」 『ダレ?』 「あ、小さいけど話せるんだ。俺は恭弥(きょうや)。みんな、キョウって呼ぶ」 『キョウ……キョウヤ?』 「そうそう、お利口だな。お前の名は?」  子犬はきょとんとした顔をしている。 「うーん、どこまでわかるんだろ。お前、真っ白だから、とりあえずマシロって呼んでいいかな」  子犬は耳をピン! とあげた。    マシロを手に抱いたまま、俺は困り切っていた。約束の時刻を過ぎたのは二度目で、とうとう神様を怒らせてしまった。  仕方ないってのはこちらの都合で、確かに約束を破ったのは事実だ。  家の手伝いや部活や課題を真面目にこなしていたら、夏休みは案外あっという間に過ぎてしまった。御使い狐たちが珍しく神社を抜け出して、二匹揃って俺の家までやってきた。 「……主様は元気がありません。もう一週間も顔を見ていないと呟いておいでです」 「えっ? そんなになるっけ。ああ、部活の宿泊合宿もあったからなあ」  だから、久しぶりにゆっくり過ごそうと約束したんだった。それが、たまたま子犬を拾ってしまったために、すっかり遅くなってしまった。  交番に届けを出したりミルクを飲ませたりしていたら、昼を過ぎたのだ。子犬は普段ミルクを飲んでいないのか、なかなか口にしない。ネット検索だけではよくわからず、犬を飼っている友人に聞いていたら、やたら時間がかかってしまった。しかも、家に置いて来ようとしても、子犬は俺から離れようとはしなかった。  うちは皆、動物好きだが、誰が手を差し出しても俺の胸にしがみついている。困り切っていたら、ただいまと玄関に声が響いた。近所に出かけていた祖母が俺の腕の中の子犬を見た途端に、目を丸くした。 「これはまた、えらいもんを拾ってきたね」 「ばあちゃん、えらいもんて? 迷子だと思って交番に届けたよ」 「人界に何で来たかはわからんけども、これはただの子犬じゃないよ。ただ、拾ったのがお前なら、主人が見つかるまでは面倒を見ないとならんだろ」 「ええええー? ただの子犬じゃない……」  うちの祖母は、見える者だ。聞こえるけど見えない俺には、普通の子犬にしか思えない。  交番に届けた後、どうにも俺から離れようとしないので、飼い主が見つかるまで預かることにしたのだ。
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