20話:彼と二度目の初恋を

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 暗闇に慣れた目で建物の外に出ると、一気に夏の日差しが降り注ぎ、その眩しさにギュッと目を閉じる。  駅まで戻る前に少し休憩するため、建物の裏手にあるベンチに向かった。  座る私の前にヒスイさんが立ち、こちらを見下ろしている。ヒスイさんは座らないのかと不思議に思った時、その訳に気付いて私の鼓動が跳ねた。  ーー強い日差しを遮るように、立ってくれているんだ。  彼が私の前に立つ事で、この位置だけ陰になっている。  ーーどうしていつも。  こんなにスマートに、優しさをくれるのだろう。また大好きが加速して、私の中から溢れ出してしまいそうになる。  私は無意識に手を伸ばし、ヒスイさんの服の裾を握り締めていた。 「上目遣いでそんな可愛いことされると、また俺の意地悪スイッチ入るかもしれないよ?」 「いいです。ヒスイさんになら、イジワルされても」  見下ろす視線と一緒に、囁くような問い掛けが降る。 「そんなに、俺のこと好き?」  ヒスイさんの目を見つめたまま、私は頷いた。 「ちゃんと、言葉で伝えてよ」  今まで以上に甘さを帯びた低音が鼓膜を震わせ、胸まで響いて小さく疼く。  少しの恥ずかしさと、沢山の愛しさと、私は彼の服を握り締める手に力を込めて、全部の想いを声にした。 「好きです。一秒ずつ好きが増えて、どうすればいいか分からなくなるくらい……。ヒスイさんの事が好き。大好き!」  その瞬間──、額に柔らかな熱が触れた。 「好きだよ。俺も」  初めて彼がくれた愛の言葉。どうしようもなく嬉しくて、胸がいっぱいになる。  その言葉と同時に、額へ、瞳へ、頬へ、まるで誓いのような優しいキスの雨が降ってきた。 「澪、大好きだよ」    そして唇に、愛しさを重ね合う。  ヒスイさんの両手に頬を包み込まれ、繰り返し、何度も何度も彼の唇の熱を知った。  *  駅まで戻る道の途中。  夏空が不意に顔色を変えた──。  突然の夕立に、二人で走り出す。 「あんなに晴れてたのに」  先程までの甘い空気が弾け飛ぶ、サイダーみたいな雨が降る。二人ともびしょ濡れで、ただ必死に走っているだけなのに、何故だかそれが楽しくて仕方ない。 「なんで笑ってんの?」 「ヒスイさんこそ」  二人で顔を見合わせ、手を繋いで息を弾ませ雨の中を駆けた。 「プラネタリウムとか、ああいう施設って、なんでこんなに駅から離れた場所にあるんだろうな」 「本当に、雨宿りする場所見つからない」  走り疲れて来た頃にようやく夕立が止み、分厚い雲の隙間から、太陽の光の束が差し込んできた。 「澪、あれ見て」  ヒスイさんの指差す空を見る。  そこにはまるで、天からの祝福のような空と大地を繋ぐ七色の橋が架かっていた。
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