天使の梯子

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 オレンジに染まった雲の切れ目から、地上に光の筋が降りている。気象用語では光芒、ヨーロッパでは天使の梯子と呼ばれる。その正体は、ただの気象現象に過ぎない。大気中に漂う微粒子、要するに埃のような物に太陽光が反射して見えているのだ。  わたしは子供の頃から本質志向で、誰かが妄想やオカルトまがいの話をするたびに論破しては、ひんしゅくを買っていた。そのため、学生時代からわたしは一人でいることが多かった。  特にいじめを受けるとかいうことはなかったが、面倒臭い人間だとは思われていただろう。  わたしは一人で空を眺める時間が多かった。長く観察しているうちに、決まった時間、場所に同じような形の雲が出来ることに気づいた。雲も気象のひとつに過ぎない。地球が規則正しく自転と公転を繰り返しているのだから、特定の条件下であれば、同じ環境が出来るのは当然だ。  そのうち、わたしは天使の梯子が見られる条件も予測出来るようになっていた。今の季節であれば、空を雲が九割以上覆っている午後四時以降に西の空に見える可能性が高い。
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