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エピローグ
ナナミは鏡を見て、愕然とした。
これが、わたしの顔?そんな馬鹿な。これは悪い夢だ。
ナナミは川島にナイフで襲われて、血まみれの顔をしたまま、徒歩でミサのマンションまで向かった。
幸い、ミサは帰っていた。ミサはナナミの変わり果てた顔を見て、すぐに救急車を呼んだ。
殺されなかったのは、不幸中の幸いだったが、キャバ嬢として大切な美貌を失った。傷は顔に半永久的に残ってしまうと、医師から告げられた。
ナナミは泣いた。多分、一生分、泣きじゃくった。ナナミはすべてを失った。
そんな時、ミサが知り合いに凄腕の美容整形外科医がいるから、手術を受けてみないかと打診された。
一筋の希望の光が射しこんだ。どうせ、一度は改修工事をした顔だ。二度目もナナミにとっては抵抗がなかった。
ナナミは美容整形外科医を紹介してもらった。
そして、手術を受けて、今、鏡を見て、ナナミは全身が震えた。夢であってほしいと思ったが、現実だった。
美容整形外科医が入室して、ナナミの傍らに寄ってきた。
「先生、この顔は何ですか?」
「その顔が君の本当の顔じゃないかね。広沢恵子さん」
広沢恵子はナナミの本名だ。
「この顔って、昔の不細工な頃のわたしです」
美容整形外科医はナナミを正面から見つめた。
「わたしのこと、覚えてはいませんか?」
ナナミは美容整形外科医を見ても、ピンと来なかった。
「覚えてないようですね。中里裕也。高校の時、広沢さんはわたしが買って、贈ろうとしたマフラーを拒否しましたね。そして、わたしを恋愛の対象ではないと答えた」
ナナミはようやく思い出した。同級生だった。彼が美容整形外科医だとは...。
「わたしは保険証を見た時、君が初恋の人だと気付きました。わたしは広沢さんの元の顔、いいえ、本当の顔が好きでした。だから、わたしが本当の顔を取り戻したのです」
ナナミは鏡を投げつけた。鏡は派手に割れた。
「いやあ!こんなの、わたしの本当の顔じゃない!返して!わたしの本当の顔を、返して!」
ナナミは中里に掴みかかった。
「ねえ、広沢さん、作られた顔なんて、ちっとも美しくない。素の顔こそが美しいんだよ。ねえ、広沢さん、わたしは今でも好きなんだ。あの時はフラれたけど、もう一度、わたしにチャンスをくれないか?わたしは君とつきあいたい」
<了>
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