新学期は、憂鬱で、僕を貶める

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新学期は、憂鬱で、僕を貶める

新学期が、憂鬱なのは、生徒だけでない。教師だって、同じだ。まして、僕みたいな古典の教師は、余計に憂鬱。おっと、中には、素晴らしい教師がいるかもしれないから、そんな事言えないね。古典の教師というと、みんな女性をイメージするけど、僕みたいな教師が顔を出すと、シーンと静まり返る。新任の挨拶を職員会議で、した時も、どこからか失笑が聞こえた。僕も、思うよ。なんで、古典なんだと。せめて、社会科とかね。格好がつく。だけど、僕は、史実が大好きだ。古典も。古本屋に行き、時間が経つのも、忘れて読み込む日々が好きだ。褪せた紙とインクの匂い。僕は、心の奥底から、落ち着く。最高だ。カフェで、コーヒーなんかより、古本屋で、コーヒーが飲むのが、夢だ。 「冗談じゃねぇ。来るんじゃない」 この人。口の悪い古本屋の何代目かの女主人。最悪な事に、僕の同級生ときた。何回、いじめっ子から、守ってくれたか。 「おい、坊ちゃんメガネ。今日から、学校か」 「今日は、午後からだよ」 「こんな所で、サボるなよ。早く行けよ」 「だから、行き遅れるんだ」 「うるせー」 僕は、慌ててバックを掴んで、古本屋を出た。僕が、本の虫だったから、運動音痴で、目立たない子だった。彼女、朝霧 夢有は、気が強く、何故か、僕を気にかけてくれた。虫が怖くてお漏らしをした僕を庇ってくれたのも、彼女だった。だから、だから、僕は、頭が上がらない。そんな僕が、教師なんて、絶対、無理なんだよ。おばあちゃん。 「晴・・・」 久留主 晴は、僕の名前。昔は、そこそこの家柄だった。蔵には、たくさんの書籍が並び、金箔の屏風が並んでいた。そのおばあちゃんが、僕の名前を呼び、枕元に座らせた。 「これから、あなたを頼ってくる人が居たら拒否しては行けない。わかったか?」 「うん・・」 おばあちゃんは、重度の認知症だ。時々、奇妙な行動をする。この日は、布団の中にいた。 「ちゃんと伝えるんだよ。天からの声だ」 「うん」 おばあちゃんは、僕を5歳くらいだと思っている。たくさんの昔話を今でも、聞かせてくれる。そのせいもあって、僕は、古典の教師になった。親も代々、教師だったから、自然の流れだった。弱気な僕は、クラスを持つ訳でもなく、勿論、主任や副主任になる事もなく、何となく、教壇に立って、卒業してから3年間は、無事に済んでいた。おばあちゃんの立っての願いで、自宅近くに越してきて、初めての授業は明日からだった。気の重い新任の挨拶は、予測通り静まり返り、事務手続きを済ませて、帰り道を、トボトボ歩いていると、僕の家の前で、表札を見上げ、立っている少年がいるのを見つけた。 「あれ?先生?」 「誰?」 僕は、目を細めた。どこかで、あったような気がする。 「僕ですよ・・・もう、忘れちゃいました?雨宮 颯太ですって」 「覚えてないけど」 「もう、忘れたんですか?やだなー」 こいつが、とんでもない奴だった。
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