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エピローグ
「本当に猫みたいな子だねえ。」
空気が清浄されてる音が、静寂の寝室の中で地を這うように鳴り伝う。清浄機の青い光とスマートフォンの光だけが暗闇の中の僕と舞香を照らしてくれる。
「猫じゃない。22歳!女!」
「生々しいな、表現が。」
「あなたから見たら私なんてガキでしょう。」
「そう思うなら、会わない。」
ふん、と鼻を鳴らしながら舞香はそっぽを向いた。論で不利になるとこうなるのは彼女の習性だ。
「大体あなたは私のことを犬だの猫だの子鹿だの。なんだと思ってるの。私は人間なんだけど。人間!女の子!22歳!」
「好きな人には犬みたいに擦り寄るようになるし、弱いところ突かれたらすぐ子鹿みたいになっちゃうし、何より。」
「子鹿にはなってない」
さっきまで両足に力が入らずに立てなかった舞香は、バツが悪そうに否定する。
「何より、猫みたいに気まぐれだ。」
猫じゃないし、とブツブツ呟く舞香の大腿にふいに僕の手が触れると、彼女の体がピクっと反応する。子鹿になってる彼女はこちらを向く気力もなく、僕に背を向けてベッドの端で横になっている。
僕は背を向けてる舞香の方を向き、後ろから徐ろに彼女の股に手を伸ばし、指を動かした。
「やめてって言ってるじゃん。」
「やめたら終わるんだよ、今日が。」
舞香の声が微かに漏れる。やめて、と僕の手を払いのけようとするが、そんなことはお構い無しに僕の中指が動くと、舞香は仰向けになり、払いのけようとする手の力も徐々に弱まる。舞香の呼吸が荒くなる。やだ、と吐息と共に声も漏れる。
僕はキスをせがむ。けども、舞香は絶対にキスには応じてくれない。分かってる。分かってはいながらも、せがんでしまう。
舞香の中から指を抜いた。舞香はその瞬間が、1番快楽を催す瞬間故に、子鹿のように体全身が痙攣をする。面白い子だねえ、と呟きながら舞香の胸を優しく撫で回す。
「ねえ、ゆっくり抜いてって、言ってるじゃん。」
「油断してる時に、ふいに抜く方が面白いし。」
「何それ。人の体で面白いとかやめてくれる?」
「なんで今日会ってくれたの?」
舞香が静かになる。気まぐれ、と答えてまた僕に背を向ける。また舞香の大腿に触れる。面白いように予想通りの反応をしてくれる。舞香は嫌い、と呟きながら僕の首に手をやり、遠ざけようとする。本当は、僕たちはもう会わない人達、だったはず。心は、ここに在らずであった。
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