豚と呼ばれて

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豚と呼ばれて

 榊 美麗(さかき みれい)  榊家の長女。  代々、巫女を産む家系の榊家に、待望の女の子が生まれた。  男の子との双子ではあったが、女子の誕生に家族は大喜びだった。  美麗の上にも2人産まれていたが、いずれも男の子だった。  ところが、生まれてすぐにも分かる位、美麗は他の男の子達とは違っていた。  鼻の穴が妙に広く、上を向いている。  赤ちゃんなのに目立つほどに。  一緒に産まれた美男(よしお)。二つ違いの長男の美一(よしかず)一つ上の次男の美次(よしつぐ)。  男の子3人は生まれてすぐにとても美しい顔立ちになると誰もが思ったほど、色白で榊家の家系の綺麗な赤ちゃんだった。  母親の美子(よしこ)は榊家の次女である。  長女の美鈴(みすず)は巫女になったので、床乙女(生涯男性とは契らない)が条件になる為、跡継ぎを産むのは次女である美子の役目になっていた。    榊家の巫女は何代も前から政治家などの相談にも乗り、その予見は外れない。それだけに、巫女を継いだ者への男性関係は厳しかった。床乙女で無くなったとたんに予見が消えてしまうという事も過去に有ったので、巫女になると、住まいは離れに移され、お世話は全て女性がすることになっている。  巫女は離れの中庭までしか出ることはできず、食事も厳しい寺の僧侶と同じで精進食がだされる。  健康的な食事ではあるが、相談事が多いと、殆ど立ち歩くこともできない為、足腰が衰え、寿命は長くない。    代々女系の家系なので、巫女を継がなかった姉妹が家の後を継ぎ、子どもを産み、次の巫女と、巫女を産むための女の子を最低でも2人は産まなければならない。  美子は23歳。美鈴は25歳。  幼いころからの榊家の様々な試験を二人で物心がつかないうちから受け、美鈴が15の年に巫女になった。  その時から、美子の役目は、この家の切り盛りと、跡継ぎを産むことになったのだ。  美子の希望など何もかなわない。美子の夫は美鈴が予見した良家の子息の(かおる)に決まった。榊家に婿養子に入れることは、良家の中でも珍しい事だったので、選ばれた者は、喜んで婿養子に入った。  結婚と同時に、跡継ぎと次の子を産む女をと、周囲にせかされ、18歳で結婚し、ようやく20歳で子供を授かったが、最初は男の子だった。その後も毎年子供を産んだ。女系の家系には珍しく、続けて男の子が産まれ、3度目の双子の出産でようやく女の子を一人授かった。  年に一度の出産はかなりの重労働である。家の事はまだ美子達の母親である美里(みさと)が行っていたので、4人の息子と娘の面倒は美子と、その家の叔父たちで、男として生まれたばかりに家の雑務を担う事になった叔父達によって、何とか見る事が出来た。  20歳に最初の子供を産んでから、とにかく女の子を産むまでは何度でも産むようにと母の美里からも厳しく言われ、ようやく女の子が生まれたが、見目麗しく。とはとてもいかなかった。それに、最低でももう一人は女の子を産まないと、どちらが巫女になっても、跡継ぎを産む女児がいないのである。  美子はため息をつきながら、産後間もないのに、夫の薫と再度子作りをしなければいけなかった。子作りのタイミングも家を仕切る母の美里が美子の生理日を管理して、決めるので、子作りをすれば大抵その時に子どもができた。  その後、また1年後に産まれのは嬉しいことに女の子だった。この子は顔立ちも大変に美しく美姫(みき)と名付けられた。  美子の子宮はもう限界だと医者にも言われ、もし生むとしても少し間を開けるように言われた。  ようやく産むことを休めると、美子はほっとしたが、元々あまり丈夫な体質ではなかったので、続けてのお産が響いたのだろう。  美姫を産んだ後、産後の肥立ちが悪くて、そのまま亡くなってしまった。  子育ては、大勢の屋敷で働く人たちにより、行われた。  やがて、美麗が3歳。美姫が2歳。他の兄弟たちも5歳4歳3歳と大きくなってきて、子ども達だけで遊ぶ時間が増えてくると、一人だけ豚鼻の美麗をいじめる事が多くなってくる。子供とは残酷なものなのだ。 美一「名前は一番、鼻の穴も一番だ~れだ?」 美次「それは~、美麗~。」 美男「豚に生まれました~。なぁ、美姫は可愛いのになぁ。」 美麗「酷い。皆でそんなこと言って。おばあさまに言いつけるわよ。」 美一「いいさ。もし、美麗が巫女になったら、どうせ俺たちは何でも言う事聞かなきゃいけないんだからな。」  そんなことが毎日続き、豚鼻。からそのうち。豚。豚。と兄弟間では呼ばれるようになった。
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