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「でも……、藤野の気持ちだって大事だからな。藤野が考えて決めたことなら、俺はいいと思う」
表情を曇らせる私に、佐々が真顔でそんなことを言う。
私の気持ちが大事——。
佐々は、ほんとうにそう思ってる? そんなこと言われたら、間に受けちゃうよ。
ずっと、心の中で燻っている私の気持ち。ほんとうに、大事な気持ち。
いっそ、伝えてしまったら……。
「佐々、私――」
吸い込んだ息を思いきり吐き出そうとしたとき。
「陽也〜、スマホあった?」
奈帆が、廊下の外からひょこっと顔を覗かせた。
「うん、あった。机の中に」
佐々の視線が、私からそれる。嬉しそうに笑う佐々の瞳は、もう奈帆しか映してない。
「またね、朝香」
「じゃあな、藤野」
教室を出て行く佐々と奈帆に手を振って、私は喉まで上がってきていた言葉を重たい気持ちとともに呑み込んだ。
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