自分の足で立って、大好きな人に会いに行く

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 藤田は書道家だ。書道サークル自体はそれほど「ガチ」な集まりではなかったけれど、藤田は今も書道家として研鑽(けんさん)を続けている。  ちょうど今、藤田はグループ展を開催しているのだ。それを思い出した遥二は、展示を見に行くついでに篠原のことを少し話せないかと思って連絡したのだった。 「中島くんと話せるのは全然嬉しいよー」  ゆったりとした声で藤田は言う。  藤田は遥二より1年早く卒業したから、少なく見積もって6年ぶりに会うことになる。それでもあたたかい声で「嬉しい」と言ってもらえてありがたい。 「展示のシフト的に、今日の14時少し前に来てもらえると都合がいいんだけど」 「伺います!」  藤田には見えないのに、ぺこぺこと頭を下げて遥二は通話を切った。  知り合いに相談するのは、「考えた」ことになるだろうか。梓の考え全部が分かるわけじゃないから、そんなの判断がつかない。でも、「ぼんやりラッキーが降ってくるのを待っている状態」からは、一歩踏み出したって思ってくれないかな。  遥二は洋菓子店のドアを開け、シュガーできらきらに彩られたお菓子たちを選ぶ。  今日は藤田のため。  そしていつかは、梓とここのケーキを一緒に食べたいな。  小さな夢が一つ、遥二の胸に灯った。
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