プロローグ

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プロローグ

(ゆずりは)灯里(あかり)はオフィス内を歩いていた。背筋を正して、ただ前だけを見て。元々中高時代からクラスで一番身長が高かったのに、さらに高めのヒールパンプスを履いているせいで、歩くだけで目立ってしまっている。 ただ、灯里が歩くだけで視線を向けられるのは、その身長のせいだけではない。モデルと見間違えるくらい整った容姿とか、若くして管理職に抜擢された優秀さとか、とにかく社内で目立つ要素はたくさんあった。 まだ20代なのに社内で最年少の課長職に異例の大抜擢をされたのは、彼女が父親の経営する会社にいることとか、女性管理職を増やす方向にある社会情勢とか、そういうのもあったのかもしれない。それなのに、大半の人間が彼女の昇進に納得しているのは、ひとえに彼女が優秀だったからに違いない。 高校時代には、県内トップの進学校にいながら、常に学年トップの成績を収め続けてきた。大学は、本当は当時から好きだった鵜坂(うさか)美衣子と一緒のところに行きたかったのに、当の本人に猛反対を食らってしまったから、不本意ながら諦めざるを得なかった。 灯里が自分に見合ったところに行ってくれないなら灯里と友達をやめる、なんて言われたら引き下がるしかなかった。高校2年生の後半に美衣子が月原茉那と仲良くなった時に、とても寂しい思いをしたから。美衣子の言う絶交は灯里にとってかなり重たい言葉であることは間違いない。 灯里は多分、周りからみればとても恵まれて、とても羨望の眼差しを受ける生活をしていたとは自分でもそれなりに自覚はあった。けれど、本当に一番欲しいものだけはまったく手に入れられていなかったのだった。 「あの……、楪課長、お昼一緒に行ってもらってもいいですか?」 同じ部署の入社3年目の子に声をかけられて「いいわよ」と快諾して、2人で一緒に近くのカフェに行く。
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