くん、くん、くん。

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 ***  結論を言えば。  ゴミに混じって、死体を捨てていた人がいた。警察に詳しく話を聞かれたものの、僕もパニックになっていてまともに答えられなかったように思う。なんせ、夏場の死体である。死後一か月は過ぎていたとかで、本当に酷い状態になっていたのだ。男か女か、子供か大人かもわからなかった。他殺体かそうでないか、も調べるのが困難だと言っていたように思う。  コロッケが見つけたのはお手柄だったのかもしれないが、僕としてはもう二度としたくない体験だった。だからコロッケにはあの後十分に言い聞かせたのだ。 「いいかコロッケ。もう、死体が見つかっても近づいちゃだめだからな。お前も、そのたびに全身丸洗いされるのは嫌だろ?病気貰いたくもないだろ?」 「ばーふ」 「自分はいいことしたのに解せぬ、みたいな顔するなよな……」  まあ、本人(本犬)にどこまで通じていたかはわからないが。  ところで。  この話はホラーなわけである。ここで終わったら、ただ優秀な犬がゴミ捨て場から死体を発見した話、で終わってしまう。  悲しいかな、これには続きがあるのだ。それも、僕にとっては恐ろしい類の続きが。  小学校高学年になった頃、ようやくコロッケを祖父母の家に連れていく機会に恵まれた。前に祖父母の家にコロッケが来たのは子犬の頃で、その時はまだ父が家にいて僕も赤ちゃんだったという。  それでだ。コロッケを、広い広い家の庭で遊ばせていたわけだが。 「ばふ……まふ?」  コロッケが、あの時と同じ反応を示した。  庭の隅で、しっぽをだらん、と下げてくんくんと臭いをかぎ始めたのである。姿勢を低くして、何かを警戒するような姿で。  しかも、それだけではない。彼はしばらくそうやって匂いを嗅いだあと、嬉しそうにシッポを振りながらジャンプを始めたのである。そして、地面を前足でほりほりし始めた。 ――ま、まさか……。  僕は慌ててコロッケを抱き上げて止めた。六年生くらいにもなると僕も体が大きくなっていたので、コロッケを抱っこすることができたためだ。 「まふ、まふ、わっふ!」 「だ、駄目だってコロッケ!駄目!」  僕は強く強く、“これはいけないやつだ”と察したのである。だってそうだろう。  母方の祖父母の家の庭に、死体を見つけた時と同じ反応をするコロッケ。  しかも、彼の喜び方が、僕と母にしかしないようなテンションの上りっぷりとなれば。 「わっふ!」  コロッケは大変不服そうだった。そして僕は、彼が死ぬまで祖父母の家の庭を掘らせることはしなかったのだが。  今、問題に直面している。  祖父母が亡くなって、あの田舎の家を凝らして更地にして売ることになってしまったのだ。母は、ひょっとしたら何も知らないのだろうか。あるいは知っていて誤魔化しているのだろうか。  工事の業者の人が、何も見つけてしまわないことを、切に切に祈っている。
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