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 翌日、いつきは看護士の目を盗んで病棟の廊下を歩いていた。熱はもう下がった。退院も近そうだ。体がなまっている。少しでも運動して元に戻さないと。  いつきが歩いていると、廊下の向こうから、小柄の栗色のショートカットの看護士が近づいてきた。突然、いつきの前に立ちはだかり、両腕を突き出し、指鉄砲の形に構えて、 「バーン!」  あ、撃たれた。思わず胸を押さえて、その場にしゃがみ込む。看護士が大笑いしている。あれ、何だろう、この感じ、すごく懐かしい。 「いつき変わってない。小学校以来だね」  彼女の言葉に、何かがつながる気がした。顔をよく見ると、どこか昔の面影がある。 「まゆみん? まゆみなの?」 「大正解」  いつきが立ち上がるのに手を貸してくれる、まゆみん、こと渋川まゆみは小学校時代の友達だった。卒業と同時に転校してしまったから、十二年ぶりの再会だ。   「いつき、今、何してんの?」  病棟の談話室で、いつきとまゆみは盛り上がっていた。 「うん……アカツキ製薬、に勤めている」 「えー、アカツキ!」  またイヤなこと言われないか。いつきは反射的に身構えた。例の不正の問題以来、会社の電話やSNSで苦情やクレームばかり聞かされてきた。
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