Ⅲ 人魚の美貌には相応の礼節を

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「ケッ! これじゃあ、とんだ骨折損のくたびれ儲けだぜ」  そんな甘えことほざいてるエーリクに俺は吐き捨てるようにしてそう言うが、内心、俺もヤツを責めた義理じゃあなかったりなんかする……かくいう俺も、あの美しさにわざと狙いを外しちまったからだ。 「ったく。またなんともハーフボイルドな仕事をしちまったぜ……ま、これに懲りて、そう易々とは人魚も人を襲わなくなんだろう……」  俺らしくもねえ気恥ずかしさと、ヤツばかりを責められねえ後ろめたさから、そんな自分を納得させるように俺は強がりを言ってみせる。 「ま、それに、報酬代わりと言っちゃなんだが、なかなかいいもん見せてもったからな……」  そして、人魚の消え失せた銀色の海を眺めながら、エーリクには聞こえないよう、こっそりと小声でそう独りごちた。
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