Ⅰ 人魚の捕獲には怪奇探偵を

1/3
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

Ⅰ 人魚の捕獲には怪奇探偵を

 その男は、なんの前触れもなく俺の前に現れた……。 「──あんたが〝怪奇探偵〟のカナールさんかい? 思ったよりも若いんだね」  俺が事務所兼住居として間借りしている本屋の二階にやって来たそいつは、俺を値踏みするかのように()めつけて尋ねる。 「ああ。俺がその世界唯一の怪奇探偵、この新天地(・・・)で最もハードボイルドな男、カナール様だ」  そののっけから上から目線な物言いに、やはり最初が肝心と、俺はそう訂正をしながら言い返してやる。  そいつは金髪巻毛の長髪をした色白の優男(やさおとこ)で、今はボロっちいが元は高価な品だったと思しきシルク製の白いジュストコール(※ロングジャケット)を着ている……ま、落ちぶれた貴族か豪商のお坊ちゃんってとこだろう。 「ハードボイルドか……気に入ったよ! あんたを頼ったのは正解だったようだ」  だが、こうして言い返すと相手はムッとするのが常なんだが、こいつはむしろ口元を歪め、妙に上機嫌な様子でそんなことを言う。 「俺はエーリク……エーリク・ア・デイズネンだ。怪奇探偵と見込んであんたに仕事を頼みたい。どいだい? 俺と一緒に一儲けしてみないかい?」  そして続けざま、まるでどっかの山師のように不敵な笑みを浮かべながら、さっそくに依頼する仕事の話をし始めた。  俺の仕事……俺はこの大帝国エルドラニアが新天地(※新大陸)に築いた植民都市、エルドラーニャ島のサント・ミゲルで探偵(デテクチヴ)をやっている。  その中でも悪霊や魔物など、人智を超えたもん絡みの事件を専門に扱う〝怪奇探偵〟だ。  そんな俺をわざわざ訪ねて来たっていうことは、こいつもそういったオカルトめいた仕事を頼みてえってことなんだろう……。 「──人魚(シレーヌ)を生捕りにしたいんだ。依頼したい仕事ってのはその手伝いだよ」  ところが、そのエーリクとかいう依頼主は開口一番、そんな与太話を口にしやがった。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!