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私の名前は香夜。貴族ではなかったけれど、それなりの名家に生まれた娘です。それなりに生きて、不自由のない生活をして、生まれた時から用意されていた許嫁の元に十六で嫁ぎました。
許嫁とは相思相愛の仲でした。そんな人と家族になれる喜び、彼の一番となれる喜び。沢山の喜びを抱いて嫁に入りました。
子宝にも恵まれて、本当に幸せな人生を送れました。思い残すことなんて何もありません。
――なんてことが言えれば、本当に幸せだったのでしょう。
確かに相思相愛の仲にあった許嫁と結婚し、可愛い娘も生まれましたが、問題はその後。結婚の前に知れたら良かったのでしょうが、彼は酒癖が非常に悪い殿方でした。祝言の前までは私の前でお酒なんて飲みませんでしたから、気が付くのが遅くなってしまったのです。
彼はお酒が入ると人格が変わり果て、私や娘に暴力を振るうようになります。私一人なら何とかなります。しかし幼い娘が怖がって泣くのを見るのは我慢なりませんでした。
我慢出来なかったのです。
私は娘が確かに眠ったことを確認してから、お酒を飲む前だった伴侶を外に呼び出し、邸宅の近くにある森にまで行きました。
その後は簡単です。私は森の奥深くにある滝壺に彼を突き落としました。あんな乱暴な人間は愛した人ではありません。娘を脅かす人間以下になったのに、いつまでも一緒にいられる訳がありませんもの。
全ては娘を守る為にしたこと。娘には不慮な事故で父親は死んだと言い聞かせ、私は夫の資産を受け継いで娘を育てました。
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