『呪い』か何か

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* * * 「彰くん?」  聞き馴染んだ声が耳まで届いて、俺は慌てて目を覚ました。寝ぼけ眼を擦れば、目の前に牡丹が立っている。 「あぁ……起こしちゃってごめんね……」  申し訳なさそうな彼女。  俺たちは喫茶店にいた。  目の前にいるのは奈津美でもさくらでもなく牡丹だし、さっきまで握りしめていたはずの金平糖の小瓶は消えている。 「そういえば奈津美は来た? 三人で遊ぼうって、いきなりびっくりだよね……まぁ、連絡がいつもいきなりなのが奈津美なんだけどさ……」  彼女は話しかけながらゆっくりと対面に座る。俺は相槌を打ちつつ、頭の中はかなり混乱していた。  いったいどっからが夢だ?  さくらと会ったところ?  そもそも奈津美と会ったところから?  そのときポケットの中のスマホが震えた。急いで電話に出ると、奈津美の声が聞こえてきた。 『牡丹来た?』  驚きながらも、俺は頷く。 「来たけど……」 『よしっ、じゃあ準備完了ね!』 「じゅ、じゅんび?」  何が何やら。  奈津美はケタケタと笑っている。 『私思ったのよ。練習も大事だけど、やっぱり実践あるのみなんじゃないかって』 「ん? え? ……ええと、それはどういう意味……」 『大丈夫! さっき電話で別のお店も仮予約しておいたから! 万一その喫茶店で告白できなかったら連絡して! 予約したお店のURL送るし!』 「いや、あの……」 『あ、私がさっきまで一緒にいたことは絶対内緒ね! 仕込みがバレたらムードが台無しだから!』 「は? 仕込み?」  次の瞬間、ブツリと切れる電話。  どうやら奈津美とこの喫茶店で会っていたのは夢ではなかったらしい。  ん? ということは……  そもそも告白の練習をしようと言って集まったわけであって……んん? ってことは『実践』というと…… 「ごめん、いま奈津美から連絡来て、インフルエンザになったから急遽来れなくなったって……インフルエンザだったらしょうがないよね……」  顔を上げれば、心配そうにスマホを見つめる牡丹がいる。『仕込み』というのは、どうやらこれを指すらしい。ふたりきりになるのは今まで何回もあったけど……こんなのデートではないか。俺は正式に焦り始めた。
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