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「……」
「お前はアリスさんのことをお母さんだとか言ってたけど、アリスさんはお前の実母じゃねえだろ。
なんだったらお前のキョーダイに妹なんていなかった筈だろうがよ」
「……」
そうか……昔の僕を知る人物なら、その違和感には気づくよね。
「キミと同じだよ、羽原さん」
何故この子が来宮から羽原へと苗字が変わったのかも、だいたい見当が付いた。
僕もこの子と再会する前は、苗字が違ってたから。
「僕も本当の両親を失くした不幸な人間だよ」
僕はそう……最初は実の母親に捨てられた。
両親の離婚で、僕は父の方に押し付けられたのだ。
その後の父は、現在の母、白坂 愛莉珠と出逢い共に暮らす……夫婦のような"不思議な関係"を築いた。
華世ちゃんも実は血の繋がりもない、義母の連れ子……義理の妹。
そして父はまた僕に温かみのある家族を与えた後……あの人は僕のそばから姿を消した。
寿命が近かったらしく、死ぬ前に蒸発する選択肢を取ったんだ。
お別れの挨拶くらいちゃんとしてほしかったものだ……。
「い、今は私の大切なお兄ちゃんだよ、お兄ちゃん!
お母さんだってお兄ちゃんのこと本当の息子のように接してるでしょ⁉︎」
「華世ちゃん……」
僕が変に顔を曇らせてしまったからか、華世ちゃんはすぐさま察して励ますように今度は僕の腕をがっしり掴んできた。
「お姉さん!
あんまり家族構成について聞き出さないでください。
お兄ちゃん涙脆いんですぐ泣いちゃいますから!」
「お前の前では絶対に泣かんっ」
一瞬父のことで目がうるっとしたけど、横で小馬鹿する妹の前なら全然悲しくなる気が失せたよ。
ある意味感謝だけど。
「そうか……。
私ほどじゃないだろうけど、お前もお前で苦労してたんだな……」
「羽原さん……」
「だったら尚更だろ、唯斗。
私の行動に、いちいち突っかかろうとしないでくれ。
同じ境遇なら分かってくれよ。
いや、同じ境遇なんだろうけど、お前には義理の母がいる。
けどこっちには……頼れる大人がいないんだぞ……?」
「……っ」
気づけば、羽原さんは涙声になっていた。
そ、そうだよね……僕はまだマシな方だ。
羽原さんは弟妹のためにただひたすら頑張って働いている。
年齢を伏せてでも大人と肩を並んで働いている。
危険と隣り合わせであろうと彼女を止める資格なんて、幼馴染であってもあるわけがない。
きっと羽原さんから見て、僕はただの綺麗事しか語らない偽善者に過ぎないだろう。
彼女は間違っている。
だけど正論を述べるだけで、相手に救いの手を差し伸ばさない僕の方が、よっぽど間違っているのかもしれない。
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