イタズラ

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 それは軽いイタズラのつもりだった。  放課後の教室。夏真っ盛りの外はまだまだ明るい。 「ほら、学校から20分くらいの公園の近くに古い空き家があるじゃん?」  大和誠次(ヤマト セイジ)がスマホに映る地図を見せてきた。  放課後になっていつもの四人が教室の隅に集まると、ムードメーカーの誠次が面白いことを考えたと楽しそうに話し始めた。  季節は夏。テスト期間も終わりもうすぐ夏休みだ。誠次は人間くらい大きな人形を作って空き家に首吊り状態で吊そうって。 「そんなことしてどうするの? 動画でも撮る?」  真野愛華は呆れ顔だけど、その目は無邪気な子どものような誠次から離せない。四人は中学一年の時にクラスメイトになり、その時から親友同士だ。  背は小さめだが美人な顔立ちで、高校二年になる前の春休みに変えた少しソバージュがかかった長髪も似合っている。折角似合っているのに、前のストレートヘアに戻そうと思っている。この髪型を見せた時、誠次の言葉が「髪型変えたんだ」  それだけだった。だから髪型を元に戻そうと思う。  愛華にはずっと前から気になっている人。もっとちゃんと言うと好きな人がいる。それが目の前でバカな事を話している誠次だ。  中学生の時は野球部でレギュラーをやっていた。特にそんなルールはないのに丸坊主にして一生懸命に野球に打ち込む姿を見るのが好きだったが、中学三年の時に腕の怪我で野球は引退してしまった。  だからって落ち込むことはなく、愛華達と遊んだり受験勉強をしたりした。怪我は高校に上がる頃には治っていたが、部活には入らずに毎日のように四人で遊んでいる。背は同年代に比べて高く、髪型はツンツンの短髪に変わったけど明るく元気なのは変わらない。  いつからこんな気持ちになったのかわからないけど、気がついたら誠次の事ばかり考えるようになっていた。友達の期間が長かったから、愛華は自分の気持ちに素直になれずにいた。 「ふーん、面白そうじゃん」  衣川綾(キヌカワ アヤ)はチョコ菓子を食べながら言った。  薄く茶色に染めた長髪で短いスカートから太ももを大胆に出して足を組んでいる。愛華がカワイイ系なら綾は美人系だ。何より胸が大きかった。薄く化粧をして口元にホクロがあり歳より色っぽい。高そうなイヤリングやブレスレットなどアクセサリーも着けているが、親が裕福で甘えればすぐに買ってくれるのだ。 「さすがエロ女、わかってるな!」 「誰がエロ女だよ!」  誠次にお菓子の空箱を投げつける。まだまだ子どもっぽい所も残っているのだ。 「でもマジでどうすんの? いつ人が来るかわからないのに、ずっと動画なんて撮れないだろ?」  沢田将(サワダ ショウ)は真面目な顔で訊いた。  綺麗にセンターに分けて黒眼鏡をした真面目クン。服装や髪型など緩い割にそこそこ偏差値の高い高校だが、将ならもっと上の学校にいけただろう。でもみんなと同じ高校がいいからとここに入学した。 「動画なんか撮らなくていいよ。誰かが見つけたら絶対にSNSで話題になるからさ」  誠次の言葉にみんなその意図を何となく理解した。夏休みが終わると誠次は親の転勤でこの学校からいなくなる。会おうと思えば3時間もあれば会う事はできるし、今時はスマホでみんな繋がっている。昔みたいに引っ越しだからって永遠の別れのような時代じゃないけれど。  それでもやっぱり寂しい。日常に誠次がいなくなるんだ。 『さみしい』  みんな言葉にしなかったし愛華はやせ我慢していたけど、本音は寂しくて泣き叫びたかった。 「よっし、じゃあ明日は昼までだから授業終わったら材料集めようぜ」  誠次の言葉でしんみりしそうな空気は終わった。  そんなところが好きなんだ。
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