ありふれた特別なこの場所で

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 自宅から徒歩五分の公園内にある、小高い丘。芝生の坂を登ったところにぽつんと置かれた二人掛けのベンチ。そこに座って眺める風景が、私は好きだ。  いくつかの遊具と桜の木々、それから住宅街が見えるだけの、ありふれた風景。けれども、幼馴染のユキと一緒に見ている時だけ、私にとってそれは特別な風景となる。 「子供は風の子って言うでしょ? そろそろ暖かくなってきた頃だし、公園にでも遊びに行ってきたら?」  ほぼ強制的に、お母さんに家から追い出されたタイミングで、隣の家に住むユキも玄関から姿を現す。外に出てきた理由は多分、私と同じだ。ユキは明らかに不機嫌そうな顔で私の前に立ち、しばらくの間、なんとなく見つめ合う。  ユキはブランコ、私は滑り台が苦手で、そもそも外で遊ぶ事自体、二人ともあまり好きではない。ゆえに私も仏頂面だったのだろう。互いの表情に、じわじわと笑いが込み上げてきた私達は、同時に吹き出した。 「寒いね」 「そうだね」 「私達、来年の春には中学生になるのにさ」 「うん」 「いつまでも子どもあつかいされて、面白くないなぁと思って」 「残念ながら親には一生、子供あつかいされるよ」 「え~何それイヤすぎる……」  春先でホントは暖かい日だったのに、口実が欲しくて『寒いね』と言って……どちらからともなく手を握った。そして、そのまま私達は公園まで歩いてゆく。私はぶつくさ文句を言い、ユキはそれに相槌を打ちながら。  公園に着くと小高い丘を登って、木製のベンチに二人で腰掛ける。 「若者は元気だね」 「ほんとに。まぁでも、あたし達も若者だけどね」  元気に遊ぶ幼い子達に一瞬だけ目を向けてから空を見上げ、軽口を叩き合って二人同時に笑う。公園まで来たのに何をする訳でもなく、ただただいろんな話をして、日が暮れるとまた手を繋いで、家路につく。  中学に上がっても高校、大学とバラバラの学校に通うようになっても、定期的にこの場所へ二人で訪れた。人並みに、下らない事で喧嘩した日もある。でもユキとなら直ぐに仲直りできて、また笑い合えた。
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