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「なんで、二人はそんなに強いの?あたし、ほんと情けないくらい駄目だかんね。……弟の前でかっこつけることもできんし、友達の役に立つこともできんし。……怖くて怖くてたまらなくてもう泣き叫びたいくらいなのに、何で二人は頑張れるわけ?」
「そりゃ、姉貴が情けないからだろ」
レンはにべもなく言い放った。
「姉貴がオバケ苦手なことなんか、俺は幼稚園児の時から知ってる。だから仕方なく俺が頑張るんだよ。気にするなよ、もう慣れてるんだから」
冷たい物言いに聞こえるが、多分彼なりの励ましなのだろう。梨華は、そうだねえ、と言いながらマイの肩をぽんぽんと叩くことにする。
「私はねえ、そうだなあ。……マイに、ハーゲンダッツ奢って貰うためかな!」
「え」
「いっつもさあ、クロッケシリーズの棒アイスばっかりじゃん?そりゃ、アレは美味しいけど、値段安いじゃん?でもって、ハーゲンダッツは基本的に高くて手が出せないわけだよ。マイが奢ってくれたら嬉しいなーっていっつもちらちら見てんの、お気づき?これ終わったら、是非とも奢って貰わないとねえ!」
空気が読めないとか、ふざけすぎているとか、そう言われることもある。でも、自分が今そういう陽気なキャラクターに見えているとしたら、それは紛れもないマイの影響だ。マイが、自分をいつでも笑っていられるような人間にしてくれたのだ。たった一か月だけれど、彼女から貰ったものは間違いなく大きいと梨華は知っているのである。
非日常の中であればこそ、日常を忘れてはいけない。その記憶は間違いなく、自分達の最大の武器になるのだから。
「……何味?」
マイは目に浮かんでいた涙を乱暴に拭うと、彼女なりの笑顔を作った。
「あたしの分も一緒に買うんだかんね。おばあちゃんの駄菓子屋さん、何味があるかチェックしてないけど、多分バニラはあるからバニラ買う。梨華ちゃんは?」
「ストロベリーか抹茶でものすごく悩んでいるところだ!」
「いいね。シェアする?半分ずつ」
「……姉貴、俺はラムレーズンがいい」
「しれっとお前も人に集るなし、レン!仕方ないから買ってあげるけど!」
「この流れで磯風さんに奢らないのは無理だよね、マイ」
「出費!!」
あはは、と少しだけ笑い声が上がった。時間がないのはわかっている。でも、このちょっとした“未来への希望”は、間違いなくこの先へ進む力になるはずだから。
よし、と三人は気合を入れて、校舎の扉に手をかけたのだった。
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