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<1・未散>
本当だったんだ。
古鷹未散は目を見開いた。
「すっご……」
目の前には、ボロボロの旧校舎が建っている。現在未散が通っている中学校とは比較にならないくらい年季が入った建物だ。茶色の壁は木造、煤けたような灰色の屋根も恐らくは木造。窓ガラスはあちこち砕けているし、玄関のアーチの柱はあちこち腐っているのか色が変わってしまっている。
昭和の頃の学校が廃校になり、そのまま令和まで壊されることなく放置されたらこのような見た目になるのではないか、と思われた。
今は誰も使っていません、住んでいませんというのが丸わかりの老朽化ぶり。言うなれば、学校の怪談系の映画を撮影するにはこれほど相応しい建物もあるまい。
空はどんよりとした雲が、分厚く垂れこめている。
なんだか校舎自体が、校庭に立っている未散の方にじわじわ押し寄せてくるような気がして――未散はごくりと唾を飲み込んだのだった。
「マジであるんだ、こんなの……」
そんな木造校舎の前にただ一人。中学生の女子がぽつんと佇んでいる状態なのに、未散にさほど恐怖はなかった。
何故ならばこれが、夢だとわかっているからだ。
学校の七不思議のひとつ――“焔鬼様の封印”。焔の鬼と書いてえんおに。重箱読みとは珍しい。
なんにせよ言われた通りに実行すると、夢の中で焔鬼様が待つ空間に入ることができるというのだ。そこで、とてつもない力を持つ鬼、焔鬼様に出会うことができればなんでも願いを叶えて貰えるというのである。
――くああああああああああ!なんっで夢の中にはスマホ持ち込めないのよ!この光景、動画に撮ってアップしたら大バズリ間違いないってのに!
悔しい、と現代っ子の未散は拳を握る。
焔鬼様、とやらにものすごく興味があったわけではなかった。ただ、こちとら何でもいいから目立ちたい、けど悪いことに手を染めるのはちょっと、というごくごく一般的な中学生である。祟りに遭いたいとは思わないがオバケは見て見たいし、なんなら霊能力なんて持てたらかっこいいではないか。
そう思っている最中、特に苦労もなく“幽霊より遥かに格上のエライ鬼”に会える方法があるなんて聞かされたら――そりゃ、チャレンジしてみたくもなるのである。
しかもそのハードルが極端に高いものではなく、特別な道具も必要ないとあれば尚更に。
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