三章 救いの手、嫉妬

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「い、一平?」 「優太さんもちゃんと話してくれたので話します、僕の想い、聞いてくれますか?」 「う、うん…もちろんだよ」  恥ずかしさで髪を掻き分けている俺に対し、君はここから本当の気持ちを吐き出そうとしているんだと気付いた俺は、君の真剣な顔に目を向け、そっと耳を傾けた。 「あの夜、大輔さんと優太さんが一緒にいる姿を見て、こんな場所で会ってしまったという想いよりも強い寂しさが僕の胸を襲いました」 「ああ…」 「ハッキリ言うと…僕、大輔さんに妬いていました…でも、よく考えてみれば、嫉妬なんか出来る分際でもないということにも気付かされたんです」 「一平…」 「僕はずっとあなたを待たせている…そして、自分に課せられた宿命が故に、偽りの自分を演じては、好きでもない彼女と家族の為に生きている」 「……」 「何が正しくて、どうしたらいいのかなんて正直よく分からなくて…でも、僕の頭からはあなたの全てが消えない…消せるわけが無いし、消したくもない…」  精一杯にまとめあげた気持ちを吐き出していく一平の表情は、次第に微笑みから悲しみに帯び、吐き出す声も徐々に震えていた。  それでも、君が見つけ出した『本当の気持ち』を俺は最後までしっかりと受け止めたい。受け止めてあげることが俺に出来る君への使命。 「ゆっくりでいい」 「そう、こうしていつもあなたは優しい…あなたは変わらない…いや、あなたは何一つ変わる必要なんかない」  誰もいない喫煙所で小さく震える君の肩を抱き寄せ、君を包み込んであげることしか俺には出来ない。何故なら、君の想いは君にしか分からないのだから。 「変わらなきゃいけなかったのは、僕自身だったんです…僕は親の敷いたレールに乗っかり、それが正しいことなのだと思って、ここまで過ごしてきました」 「…」 「自分の気持ちを押し殺せばいい、それで何もかも上手くいくならそれでいいと思っていた最中、あなたに出会い、僕は本当の自分を見つけた」 「…」 「でも、こんなに幸せでこんなに僕が僕らしく居られる空間があることに、僕は甘えていただけなんだと気付いたんです」 「一平…」 「帰る場所があるからと、いつでもあなたを待たせては、辛い想いをさせ、あなたを想う度に家に帰れば偽りの自分を彼女へと向ける罪悪感…」 「ちゃんと整理をすればするほど、親が敷いたレールが悪いのではなく、ちゃんと自分の気持ちに向き合うことが出来ずにいた僕自身が間違っていたのだと気付いたんです…」 「い、一平、それはちが…」 「違くないんですよ…僕は、彼女という存在も傷つけていれば、大切なあなたのことまでも傷つけてしまっていたんです…」  本当の気持ちに向き合ったからこそ、君は君という存在には気付き、この答えに辿り着いたのだと感じたけれど、俺は君に傷つけられたとは一度も思ったことはない。  苦しく悩んだ時もあったけれど、その分、君との幸せの方が遥かに大きいものだったから。 「僕、なにやってるんだろう…自分だけが我慢をすればって思ってたのに、気付けばみんなのことを傷つけてしまっていた…でも、もうこれ以上戻ることは出来ない…いや、戻りたくなんかない、僕は僕らしく生きたい、宿命なんかに囚われずに大好きな人の傍で幸せな日々を送りたい…」 「一平…」 「そして、あの夜に繋がり、そこで想いがしっかりと固まったんです…僕はもう逃げない、誰も傷つけたくない…そして、僕はあなたを誰にも盗られたくない…」 『僕は、あなたの傍にずっといたい』 『あなたにこの想いを届けたいと決めたんです』  君からの『本当の気持ち』に涙が止まらない…君が見つけ出した答えと俺の見つけ出した答えが例え『いけない恋』だとしても、間違っていたものではなかったのだと言うことが証明されたこの 瞬間。  そして、肩に回していた俺の手は、君をそっと身体へと引き寄せ、涙を流す君を優しく包み込んでいた。 「俺もお前の傍にずっと居たいよ…お前を他の誰かに盗られるなんて考えたくもない…」 「ゆ、優太さん…」 「だから待ってる…この気持ちを絶やすことなく、ずっとずっと…待ってるから」 「はい…必ずこの場所に戻ってくるので、もう少しだけ時間を下さい…」  互いにもう、後ろは向かない。  素直な気持ちで前に向かって、進んでいく。  この先、どんな壁がぶつかろうときっと今の俺と君なら乗り越えることが出来るはず。  互いに『本当の気持ち』を見つけ出した俺たちなら、きっと大丈夫だと心に言い聞かせて、俺たちは誰もいない喫煙所で涙を流しながら抱き合い、しばし本当の愛に包まれた温もりに包まれていた。
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