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チントンシャンテントン チントンシャンテントン……
恋鞠は夏鳴寿々の三味線の演奏に合わせて「化け猫」を舞う。だが、恋鞠の舞いは精彩を欠いていた。この半年、不発見ないタマミのことで頭がいっぱいで、心ここに在らずの舞になっていたからである。
総理大臣もそれを分かっているのか、奥歯をギリギリと噛み締め、御猪口を握る手もぷるぷると震わせて苛々としており、癇癪を起こす寸前であった。
これでこの座敷は失敗や。総理を怒らせたとあっては、恋鞠はもう祇園には居られへん。これからは私の天下や! 夏鳴寿々はニヤリと口角を上げた。
その瞬間、恋鞠の動きが止まった。そして、首をくぃーと動かし、夏鳴寿々を見下ろしながら叫んだ。
「恋鞠を苦しめるためだけに、よくも我を三味線にしおったな! 許せぬ!」
シャャアアアアー! 恋鞠は猫が威嚇するような声を上げた。そして、夏鳴寿々に向かって飛びかかり爪を立てて顔を引っ掻き回した。
夏鳴寿々の白塗りの顔が恋鞠の爪の刃によってザクザクに引き裂かれていく…… 歌舞伎の隈取を思わせる傷だらけになり、もう見る影もない。
恋鞠は夏鳴寿々が手放した三味線の棹を握み、大きく振りかぶり、夏鳴寿々の頭に向かって振り下ろした!
「我が恨み、晴らしたり! にゃあ~お!」
恋鞠はこう叫ぶと、満足したような穏やかな顔をし、そのまま倒れてしまった。
一部始終を見ていた総理大臣はこの出来事をこう語っている。
「芸妓が…… 本物の化け猫に化けおった……」
おわり
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