祇園に化け猫が跳梁跋扈ス

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祇園に化け猫が跳梁跋扈ス

 京都には日本最古の高級歓楽街があることをご存知だろうか。 祇園である。江戸時代の花街(かがい)より続く歴史と伝統は、他のネオン輝く歓楽街とは一線を画すと言っても良いだろう。 今でも祇園のお茶屋は、一見さんお断りと言われるぐらいに格式を重んじている。それだけにお茶屋に遊びに来る客も、功成り名遂げた者ばかり。政治家・プロスポーツ選手・役者・などなどなど…… そんな彼らをお茶屋の座敷で饗すのが、舞妓・芸妓と呼ばれる女性達である。 舞妓・芸妓は「屋形(所属事務所)」に所属し、お茶屋からの依頼を通して座敷に入ることで饗しの仕事を行うものである。  祇園にはいくつも屋形やお茶屋があり、多くの舞妓や芸妓がはんなり(華やかに)と道を日々練り歩いている。そんな彼女達は日々、花代(売上)を競い合っていた。 今日は一年間で最も多く花代を稼いだ舞妓・芸妓を表彰する「祇園・オブ・ザ・イヤー」が開催される日である。 祇園のセレモニーホールには舞妓・芸妓が集まり「祇園・オブ・ザ・イヤー」の発表を固唾を呑んで待っているのであった。 ステージ上では京都の祇園文化財団の役員が、その名前を読み上げようとしていた。 「では、発表致します! 今年度の『祇園・オブ・ザ・イヤー』は…… 駒形屋、恋鞠(こまり)に決まりました!」  恋鞠は祇園の屋形・駒形屋に所属する芸妓である。彼女は十六歳で祇園の門を叩き、舞妓となった。二十歳になるまでの厳しい修行と数多の座敷を経て芸妓になった後は、愛嬌の良さ・美しき外見・どのような相手でも対応できる豊かな教養・厳しい修行で得た確かな芸事で客の心を掴み、「祇園に恋鞠あり」と言わしめる程の芸妓となっていた。 そんな恋鞠が二十一歳になって初めて得た栄光「祇園・オブ・ザ・イヤー」は努力と才能によって与えられたものであると言っても良いだろう。  ステージに昇った恋鞠は、あまりの嬉しさに感極まり涙を流していた。 「今回は…… こんな栄えある賞を頂き…… ほんまにおおきにどす…… 何も出来へん右も左も分からへん、田舎者の未熟なウチを…… 見捨てんとってくれはった…… 『おかあさん(屋形の女将(トップ))』、『時枝さんねえさん(先輩の呼び方は名前にさん付けし、それからねえさんを付けて呼ぶ)』のおかげどす…… 学園(舞妓・芸妓が通う専門学校)の先生(センセ)もウチに厳しゅうも優しく教えてくれたからこその今どす…… 泣いていたら…… 涙で化粧取れておぼこい顔が台無しっておかあさんに怒られてしもう…… でも、涙が止まりやしません……」と、恋鞠は受賞の挨拶を行った。 セレモニーホールに万雷の拍手が巻き起こる。
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