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25.ミランダ女王陛下万歳。
「ミランダ女王陛下万歳! ミラ国に栄光あれ!」
私の暗殺未遂をした貴族たちを処刑すると直ぐに、ミラ国王陛下は私に王位を譲り渡した。
暗殺という野蛮な手段を許さない姿勢を示すためと、私の主導した改革がミラ王家としての総意だということを示すためだ。
頭に王冠を被せられた時に、昔ミライが私の誕生日に紙の王冠を作って被せてくれたことを思い出した。
「ミラ国の皆さま、ミラ国はとても小さな国です。しかし、皆が手を取り合って知恵を出し合い、強く豊かな国となりました。これからも家族のように国民と手を取り合い、この国をより良い方向へ導いていきたいと考えています」
私は、元の世界では自分の家庭も愛する息子の心も守れなかった。
私は今ミラ国を背負っているのに、いつも元の世界に戻りたいと思っている。
今の私ならミライの心を守ることを最優先する。
彼の苦しみを知らないフリなんて絶対しない。
訓練中にやめてしまった私には職歴がなく、自分には何もできないと思っていた。
でも、今は意思さえあれば何だってできると自分の力を信じられている。
だから神様、お願いだから私を元の世界にミライの元に戻してください。
「ミラ国に栄光あれ! ミランダ女王陛下万歳!」
ふと国民の喝采に現実に戻される。
私は10年以上ミラ国にいて、国民の未来に責任を持つ女王になったのだ。
そろそろ元の世界のことを考えることをやめて、今の世界に集中するべきだろう。
「姉上、急な即位式でお疲れなのに、これから帝国の建国祭にたたれるのですか?」
戴冠式が終わり執務室で仕事をしていると、キースが心配そうに私の元を訪れた。
「ラキアスと約束しましたから。キース、私の留守中のミラ国を頼みますよ」
ラキアスは私が女王に即位したことをどう思っているのだろうか。
彼とは2年間会っていないが、その間も常に彼は私に手紙で愛の言葉をくれてミラ国を支援してくれた。
10年前、私が女王になったら自分は婿入りすると言っていたが今の彼はそれが不可能なことをわかっているだろう。
彼は帝国の皇族の貴重な紫色の瞳をしているから、一生帝国内で暮らさなければならない皇族なのだ。
「父上もいらっしゃるので大丈夫です。帝国へは長旅になりますから、エイダン卿も道中の姉上をよろしくお願いしますね」
私の後ろに控えているエイダン卿に声を掛けて、キースは仕事に戻っていった。
「ミランダ女王陛下はラキアス皇子殿下が好きだったのですか?」
突然、エイダン卿から聞かれた質問に私は驚いてしまった。
「美しくて優しい皇子様を好きにならない女の子はいませんよ。ただ、私は女の子ではないから、例外かもしれません」
ラキアスも17歳になっている。
誰もが恋をするような美しい男性に成長しているだろう。
だけれども、私は彼にときめくことはあっても恋はできなかった。
私は女の子ではなく、ミライの母親だ。
17歳の彼に出会ったら母親であることを忘れて彼に夢中になるだろうか。
どれだけ彼が美しくなっていようと、そのようなことが起こらないと確信できる。
私はこの世界の時が経つほどに、未練がましく元の世界の息子のことばかり考えている。
「確かに、ミランダ女王陛下は出会った時から悟りを開いた仙人のようなところがありますよね。でも、安心してください。鏡の前のあなたは美しい17歳の女性です」
おそらく、今日私が何度か深刻な表情をしていたのだろう。
エイダン卿は私を笑わせようと、鏡の前に冗談めかして私を連れていった。
この10年彼とは相棒のように一緒にいて、お互いの感情の機微に敏感になった気がする。
付き合いが長くなると彼は粗野な雰囲気とは真逆に、繊細な心の持ち主で優しい人だとわかった。
鏡にはピンクのふわふわのウェーブ髪に美しい空色の瞳をした若い女の子が映っている。
これが今の私なのだ。
「あら、このような美しい女性は見たことないですわ。隣にいる騎士様もとても素敵です。是非、私を帝国の舞踏会までエスコートしてくださいな」
私は微笑みながらでエイダン卿の手に自分の手を重ねた。
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