ロール様のお茶会2

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ロール様のお茶会2

「なんとした事か!申し訳ありません、ステ、いえ、ヴェンツェル公爵令嬢様!」 とりあえず、忘れてはいなかったのね。 「サラ!なんて事をしたのよ!!」 大袈裟に2人がサラと呼ばれたメイドを叱責するが、嫌な目だ。 よくやったと言わんばかりの、眼差しをサラに向けている。 「申し訳ありません、ヴェンツェル公爵令嬢様。サラ、直ぐに公爵令嬢様を着替えさせてあげるのだ」 「申し訳ありません!こちらへどうぞ!!」 震える声で、いや、こっちも演技ね。 だって私にお茶を零す役はいつもこの子だ。 私が立ち上がれるように、背後に付き、背もたれを持った。 成程ね。 いつもなら帰す所だか、今回はフィーとカレンがいる。私を2人から離しその間に取り入ろうと言う魂胆か。 王妃様に何か言われているのだろう。とても必死さが伝わってくる。 私をこの2人から引き剥がし、自分の方に率いれたいのは分かるが、残念ね。 お2人はこちら側だもの。だって、目が爛々と輝き、笑いを堪えているのがよくわかる。 とりあえず立ち上がるか。 「恐れ入ります」 サラがそう言うと私が立ち上がるのと同時に椅子を引いた。 悪くない。 ただ、仕えた主が悪かったわね。 ふっ、 サラと目が初めて合った。 不思議な感情の瞳だった。 だが、直ぐに目を背けた。 「楽しみね、フィー」 屈服指せる、冷たい笑いと共に声がした。 やはりきたわね、カレン。 「そうだな。どれだけスティングに似合うドレスを用意しているか見物だな」 その言葉に言い方に、得心した。 そうくるのね! いつもながら人の挙げ足をとるのが上手いカレン、と思っていたけれど、フィーも同じ考えなのだわ。だから、2人の会話が成り立つのだ。 じゃあ、今回も地雷を踏んであげましょう。 「あら、当然ですわ。わざわざ、このメイドが私にお茶をわざと零したのです。お2人がいるからこそ、ご用意したのでしょうから、楽しみですわ」 「・・・え・・・?」 微笑む私に、サラは一気に顔色が変わり、まるでこの世のモノでは無いものを見るかのように私を見た。 ? 何か、微妙な感情が伝わってきた。 「わざとなのか?」 「は、はい、フィー皇子様。今回だけではなく、毎回です。これも、この日の為でございましょう。いずれ来る、私に似合う素晴らしいドレスを、それ相応の方に見せる為に、練習してきたのです。ね、サラ、そうでしょう?ちなみにどちらの案?それともあなた?」 「・・・」 答えれないわよねえ。あなたも、 そして、この方々もね。 「どうされました、ホッリュウ伯爵様、ロール様?」 可愛らしく首を傾げ、聞いて上げました。 そのおののく瞳は、きっとこれまで私が見せていたのでしょうね。 「・・・い、いや・・・その・・・」 冷や汗を初めて見たわ。 「ふうん、どうりで慣れてるな、と思ったけど気のせいじゃなかったのね。じゃあ楽しみだわ。わざわざ、私とお揃いのドレスを汚してまで、見せたい、ドレスなのでしょう?」 「そうだな。ロール殿がたいしたドレスを着ていないのがわざとなんだよ。さすがだな。自分が引き立て役になり、公爵令嬢を持ち上げる。これは、なかなか見物だな、カレン」 「楽しみだわ」 短い言葉の中に、慇懃な感情そのままに目を細め笑うカレンは、王者その者だった。 やっとわかった。 この2人は、2人で1人なのだ。 だから、留学が1人ではなく、2人一緒なのだ。 そこに意味が有る。 言葉なく、目と目で意志を感じ、お互いの性格を網羅しているからこそ立ち位置を変える。 双子だからだろう。 その以心伝心がより威圧ある気品を醸し出し、誰もを屈服させる。 この2人が揃い言葉を発する度に、監視されている、と刷り込まれる。 そこから 帝国への、 欺瞞と誠実、 不信と信用、 信頼感と疑心、 混じり合う感情を上手く2人が、 誘い出し、 より、 帝国を有利に立ち位置にする。 本当に、恐ろしいわ。 どこがはったりよ。 どこが子供、だからよ。 背中に冷や汗を感じながら、 絶対に敵に、しちゃダメだわ、と思った。 「早く案内してちょうだい」 私の言葉にサラは、呆然とホッリュウ伯爵様を見つめ何も答えなかった。 「やあね、そこまで焦らさなくてよいいわ。ほら、早くスティング様を連れて行って上げて。そんな汚れた格好の公爵令嬢を見世物にするなんて、気が知れないわ。ねえ、ホッリュウ伯爵様もそう思うでしょう?」 「そ、そうですが・・・その」 机の上で両手を握りしめ、俯くだけで立ち上がらない。 カレンとお揃いで着てきたこのドレスを汚された事に、私は、静かに、でもかなり腹が立っていた。 見てわかった筈なのに、それよりも、自分達の事ばかり考え、平気でしてきた。 「はい、フィー皇子様、カレン皇女。では、着替えてまいりますのでお待ち下さい。私も楽しみです。さぁホッリュウ伯爵様、ロール様、案内下さい」 歩き、ホッリュウ伯爵様の後ろにたった。 ドレスの染みが目に入り、より、怒りが込み上げてきた。 「どうされました?ご自分で言われた事に責任を持ちない!」 私の鋭い言葉に、ホッリュウ伯爵様とロール様が弾かれたように振り向いた。 もう、 遅いわ。 助けを請う顔を、 今更、 誰にしようとしているの? 2人の間にそっと顔を近づけた。 「この事をあなた方の、傘にご報告するのでしょう?その傘の庇護の元、ご自分達が幾らも大きくなっていると思い込んでいるようですが、その傘はどれ程強固なものですか?」 傘が誰の事を指しているのかなんて明白だ。 一瞬考えたようだが、すぐに理解したようで、目を見開いた。 「差し出された傘はよく思量し、入られた方が宜しかったと思います」 「な、何を仰っている。私は人を見る目はある!」 残念だわ。 過去形で言ったのに理解てくれなかったようだし、ご自分を過信し過ぎているわ。 「そうですか、それなら宜しいですわ。でもね、傘、と言うのはとても勉強になりました。だって、私、繊細な薄く光る傘を差し出され、入る事にしましたもの」 急に2人は顔を強ばらせ、フィーとカレンを見た。 私が誰の傘に入ったか、分かったようだ。 「只、残念ながら、差し出された傘は何時までも、頭上にありませんよ。ふとした事から消えていく。このお茶会をご報告してもまだ、さして下さるでしょうか?もし、傘が消えたその時」 捨て駒は、捨て駒だわ。 「たかが知れてる、ホッリュウ伯爵様はご健在でしょうか?」 がたり、真っ白な顔で立ち上がり、震え出した。 「あら?やっとご案内頂けるのかしら?それとも」 カチャリと覚めたお茶が入ったカップをとり、 バシャ! とホッリュウ伯爵様の服に中身をぶちまけ、カップを後ろに投げた。 「これで、ご一緒に着替えに行けますわね。最後まで足掻き下さいませ!」 無言で震えるホッリュウ伯爵様に虫唾が走った。 少しくらい歯向かう位の器量さと度量が無ければ、その程度の人間だ。 苛つく。 殿下の為の我慢してきたが、 もう、 遠慮なくなど要らない。 「どうされました?もう少しお話をしないと案内して下さらないのでしょうか?そこまで焦らして下さるとは、本当に楽しみですわ。それならもう少しお話ししましょうか?私、面白い事を聞きましたの」 「・・・話し?」 私の微笑みに何かを感じたようで、ゆっくりと首を振ってきた。 「前日手に入れられた、幻と言われる300年前のワイン」 ピクリと眉が動き、睨んできた。 「御心配いりませんわ。誰も欲しいなど思っていません。だって」 お父様にホッリュウ伯爵様の何か知らないか、と聞いたら教えてくれた。 「偽物ですもの」 「バカバカしい!そのような口から出まかせを言う事が、面白い話ですか!?はっ、羨ましいのでしょう?あれは何年も探し求めたワイン。何処からか、私のが手に入れた事を聞いたのでしょう?」 「あら?急に饒舌になりましたね。ご自分の立場が悪いと口を閉められて、都合いい時に反論。だから、偽物を掴まされるのです」 「偽物ではない!私はこの目で見て、触って確認したのだ!!ラベルも本物だった!!」 「ラベル、ですか」 悠然と微笑みホッリュウ伯爵様を見上げた。 「ガーフィ公爵様に出入りしている商人の1人が、他の商人から聞いた話しで、ラベルを変えただけで本物だ、と騙された男がいる、と面白おかしく教えてくれたそうですよ。それも近々子供相手に、大金が入る、とそう豪語し、その偽物のワインを、6本も買われたそうです。かなりの金額だったそうです」 かなり苦労して金を工面したようで、金貸しからも多額の借りた、とも聞いた。 「そ、それは・・・私では、無い」 「そうでしょう。誰でもわかる事ですわ。まずそれ程珍しいワインが6本も準備されること自体、虚偽。では、その方を憂慮致します。そうでないと高利貸しからどうお逃げになるのでしょうね?でも、子供相手、とは面白い比喩表現だと思いませんか?つまり、矜恃だけの愚鈍な大人ですからね」 「・・・お、お父様!?どういう事です!!あれは本物ですよね!?」 「ロ、ロール、なんの事だ!?」 掴みかかるようにロール様がホッリュウ伯爵様に近づき声を荒らげた。 「だって、今の話ではまるでお父様の話だわ!ワインを売ってお金にすると言っていたけれど、偽物ならどうするの!?」 「本物だ!他の男の話をしているのだ!!」 「あら?やはり興味がおわりですか?私ワインの名前を聞いてきましてので言いましょうか?」 「それがいいわ、スティング様。これじゃあ話が進まないわ」 「そうよ、教えてください、スティング様!」 「やめろ!名前など聞かなくても本物だ!!」 「お父様、どうしてそんなに焦っているの!?本物なら聞くべきだわ!!」 その通りです。たまにはいい事言うわね。 「スクリーミング・イーグル」 喚く2人に、私の声は小さいながらも聞こえたのだろう。息を飲むホッリュウ伯爵様が、崩れるように座り込んだ。 「・・・そんな・・・」 ホッリュウ様はぐらりとよろめき、支えるために掴んだテーブルクロスがずるりと動き、 乗っていた茶器が、 ゆっくりと一緒に動き、 逆撫でするように嫌な音をたてて、 割れていった。 「フィー皇子様、カレン皇女様。また今回も招待主がお顔色がすぐれないようですね。帰りましょうか?」 私の言葉に2人は、楽しそうに頷いた。 「そうね」 「そうだな」 「では、ホッリュウ伯爵様、ロール様、私達は帰りますので、ごゆっくり静養なさって下さい。ドレスは我が屋敷に送ってくだされば結構ですが、とりあえず、このドレス代は請求致しますわね。その金額を見て、ご用意されたドレスが本当に相応しいか判断して下されば、わかり易いでしょう。今日のお茶会お招きありがとうございました」 顔を上げもしないホッリュウ伯爵様に、私はにこやかに微笑み踵を返した。
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