7.

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7.

アピチェを起こさないようにそっと体を横にして寝かせた後、自室へ戻り気持ちを落ち着かせながらもなかなか寝ることができなかった。 翌朝。昨夜の嵐が嘘のように晴天となっていたが、潤の心はモヤモヤしている。ベッドから降りてあくびをしながら台所に行くと窓から燦々と朝日が差していた。 ぼんやりしながらも潤はまた昨日のことを考え始める。アピチェが好意を持っていたことに全く気がついておらず、かなり懐いてくれたと思っていたのだが恋愛対象として見ていたとは。 じっと見つめていた、あの金と青の瞳を思い出し、胸が疼く。だがすぐ首を振った。 (いやいや相手は十歳も年下なんだぞ) この世界が同性愛をどのように捉えているかは分からない。たまたま自分の性癖と一致したとはいえ軽々しく考えてはならないのだ。アピチェにはこれからの人生があるのだから、と考えた時、潤は気がついた。 (俺はいつまでここにいて、どう最後を迎えるんだろうか) 考えまいとしていた問題に直面して、突っ立っているとアピチェが起きてきた。 「おはよう」 目をこすりながら挨拶してくるアピチェ。その後も、昨夜のことなどなかったかのようなそぶりに、潤の方が戸惑っていた。 その日以降、二人は気まずくなることもなく、相変わらずのんびりと過ごしていた。ただアピチェは告白して気が楽になったのか『だって潤が好きなんだから!』が口癖になっていた。先日も突然腕を組んだりして、潤が慌てて手を離したら、頬を膨らませながら好きなんだから仕方ないよ、とぶつぶつ言っていた。アピチェの口癖に、潤はその度に苦笑いする始末だった。 そんなある日、夕食の買い出しに街に来た潤が 歩いていると前方に黒い馬がゆっくりと歩いていた。騎乗しているのは赤いマントの騎士。この国では珍しい黒髪の彼は確か、アピチェと仲良く話ししていた騎士ではなかったか。 そう思っていた時、子供が走ってきて潤の足にぶつかってしまう。そして持っていた紙袋を手放してしまったために、中身の果物が派手に転がってしまった。 潤は慌てて、果物を追って回収するが、そのうちの一つがその騎士の馬の足元まで行ってしまった。転がってきた果物に気づいて、騎士が馬の歩みを止めたので、潤が慌ててその馬の前まで行くと、騎士は馬から降りて果物を手に取り、潤の方に向いた。 「申し訳ございません」 わざわざ拾ってくれた騎士にそう、お礼を言って顔を見た瞬間……潤はアッと驚いた。黒髪に、オッドアイではない、黒い瞳。少し痩せた頰にくっきりした二重。 (俺に、似てる……?) 目元にあるホクロまでが似た場所にある。眼鏡を外した自分の姿を鏡で見ているようで思わず息を呑む。元々裸眼でも過ごせるため、最近は眼鏡をかけていないのだ。 顔を見合わせた騎士も驚いており、潤の方に近づいて来た。 「お前、私にそっくりだな。黒い瞳ということはこの国のものではないな?私のルーツは北の果て国だが、お前もそこから来たのか?」 騎士は興味津々なようで潤に問いかける。 「いえ、自分は実は記憶喪失でして。名前しか、覚えていません」 そう潤が言うと、騎士はハッとした顔をしてそのあと、笑顔になった。そして突然、潤の手を取った。 「ああ、君か!アピチェが一緒に暮らし始めたっていう男は」 何故、そんなことを知っているのだろうかと潤は驚いたが、きっとアピチェが城の前で彼に話したのだろう。 「私はイラーレだ。お前の名前は?」 「潤です」
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